スーヴェニア



珍しく一人のとある午後。

アルヴィンとミラは剣の稽古に、ジュードとエリーゼは買い出しに行ってるから私はおとなしく留守番。

ぽかぽかと差す日差しが気持ちよくて、窓枠に片膝を立てて座りながら外を見やった。


「そこで敵の後ろに回れ!」

「はぁっ!」


ここから見える二人の様子を見て頬を緩ませる。

アルヴィンはああ見えて結構教え方が上手ね…。
ミラの上達が速いのは剣の才能に恵まれてるからだけじゃないのかもしれない。


「ガイアス!いざ尋常に勝負!」

「またか…、今は仕事中だ」


……ふと、ア・ジュールにしばらく居た時のことを思い出した。

15歳だった私はその時にはもう子供の扱いに慣れていたけれど、年上に対しての気の遣い方なんて分からなくて。
だからガイアスが執務で疲れた顔をすると不意討ちで勝負を挑んでは執務から離そうとしてた気がする。

今思えば余計に疲れさせるだけのありがた迷惑にしか思えないけれど、あの時の私に思いつくのはそれが精一杯だったのね。

結局、なんだかんだ言って勝負に付き合ってくれるガイアスに甘えてたのかもしれない。





「リィンー!」

「……セレナ、人の目がある時はその名で呼ぶなと言っただろう」

「えへへ…、ごめんなさい」

黒一色の彼の姿を見つけて走っていくと少し怒られた。
謝ると「本当に反省しているのか?」って疑うみたいに聞かれるけど、そう言うウィンガルの私の頭を撫でる手は優しいから全然気にならない。

その温かさにへにゃりと表情を崩しながら、ウィンガルを呼び止めた理由を思い出してあ!と声をあげた。

「どうした」

「今日ガイアスの部屋覗いたんだけど、疲れた顔してたの」

そう言えば覗くな、と頭を叩かれたけど、私が言いたいことなんてもうお見通しのウィンガルは小さく頷いて了解してくれた。

「今日は特に急ぎの仕事も無い。……行って来い」

「うん!」

前にウィンガルの許可なくガイアスを(無理矢理)休憩させて怒られたことがあって、それで懲りた私はあれ以来ちゃんとウィンガルに一言声をかけるようにしている。

あの時はこっそり睡眠薬をお茶に混ぜて飲ませた。
でもそのせいで民の陳情を聞く時間になってもガイアスは目が覚めないままで、あれは失敗したなぁ…。

だから私はどうすれば皆が困らないままでガイアスを休憩させられるのか考えた。


――それで思いついたのが、これだ。


「ガイアス!」

バーン!と扉を勢いよく開けながら竹刀を突き出す。

「……セレナ、今は」

「仕事中だ、なんて言わせないよ?ウィンガルからちゃんと許可はもらって来たもん」

そう言うと額を抑えてため息を吐くガイアス。
でもそれは嫌がって吐くため息じゃないと知っているから、私はぐいぐいとガイアスに竹刀を押し付ける。

「ほら、竹刀持って!稽古付けてよ」

「お前に一番欠けている淑女としてのたしなみならいくらでも教えてやろう」

そう言いながらも竹刀を受け取ってくれるガイアスに、けど私は嫌な顔をする。

「えー…、淑女なんて窮屈だよ」

「ならセレナは一生結婚できないな」

「なんだとバガイアス」

軽くガイアスを睨み付けると、その赤い目は少しだけ優しく細められる。
ラ・シュガルではガイアスの目は血のような赤だと例えられていたけれど、私は宝石みたいに綺麗な目だと思う。

ほら今だって、細められてる赤色はこんなにも優しい。
血なんかに例えられるわけがない。


「ガイアスって優しいよね」

「…ふ、そんなことを言うのはお前ぐらいのものだな」

私だけ?
そんなことないよ。

ア・ジュールの人はカン・バルクに近ければ近いほど言うんだよ。

「ガイアス王は民のことを本当に考えておられる慈悲深い方だ」って。

ねぇガイアス、大丈夫だよ。
カーラが「昔の兄さんは優しかった」って過去形でそう言っても、私はちゃんと今もガイアスが優しいこと知ってるからね。


それを伝えるように隣を歩くガイアスの手をそっと握ると、またガイアスは優しく目を細めて私の手を握り返した。


この距離が私の自慢。


王のすぐ後ろになら沢山人は居るけれど、隣には誰も居ないから。

王の唯一対等である友人、それが私。



**********



「やぁっ!」

「まだまだ踏み込みが甘い」

だん、と踏み込んで突きを出すとそんな言葉が返されて私の竹刀は防がれる。
こうして打ち合いを始めてから数十分、さすがにそろそろ疲れてきた。
もう、少しは手加減してくれたっていいのに。

「手加減などしては意味がないだろう」

「心読まないでよ、っと!」

「っ…、やるな」

また打ち込んだのをガイアスが受け止めて、そこからつばぜり合いになるけど、そうなると女の私には不利。
竹刀をはじいてからバックステップで一旦後ろに下がった。

そんな私の動きを見てガイアスは少しだけ口角を上げた。

「……だいぶ上達したな」

「城でみっちり鍛えられてるからね」

それでもまだまだガイアスには…、ううん、ウィンガルにさえ及ばないのだけど。


そう思って少し眉を下げると、

「休憩するぞ」

「あ、うん」

ガイアスが竹刀を下ろして城に向かって歩き出していた。
それに慌ててついていく私。

…今更だけど、カン・バルクの気候は寒い。
早くお城に帰ってココアでも飲みたい。


「セレナ」

ウィンガルに頼んだら淹れてくれるかな、なんて考えていたら隣を歩くガイアスに話しかけられた。
けどなに、とそっちを向こうとすると頭に手を置かれる感じがして動きを止めた。

「俺もウィンガルも、セレナには十分助けられている」

「…!」

「お前が気に病むことは何も無い」

瞠目する私。
ガイアスが頭の上の方でふっと笑う気配がした。


――あぁもう、本当に。


「分かってたんだ、ね」

「……何のことか分からぬな」


しらをきるガイアスはやっぱり優しいと思った。
分かりにくいけど、確かに伝わる温かさがある。

思えば私が剣を始めたのも、そんなガイアスやいつも苦労しているウィンガルの助けに…力になりたかったからで。
それにはル・ロンドで習った護身術だけじゃダメだと思って、剣の教えを城の武官に頼み込んだ。

そのためにはもっと強くならなきゃいけない。
せめて隣に並べるぐらいには。


「待っててね。私、ガイアスやウィンガルに負けないぐらい強くなるよ」

「……あぁ。その時には、お前に剣をやろう」


――まだ剣を下賜されることの本当の意味をよく分かっていなかった私は、少しだけ目を細めたまま頭を撫でるガイアスの手を握って笑った。

素直に嬉しかった、剣をもらえることが。

待っていてくれることが。


手を優しく握り返してくれたガイアスと二人並んで城に帰って、嫌がるウィンガルも誘って三人で一息ついて。
それから何年かたってからはそこにジャオやプレザ、アグリアも仲間に入った。


楽しかった日々、あそこには大切な思い出ばかりで。
一ヶ所に長くは留まらない私の、唯一羽を休める帰る場所。





コツコツ


「……ん」


ノックされてるような音につむっていた目を開けると、窓をシルフモドキがくちばしで叩いていた。
外に見えていたアルヴィンとミラが居なくて、代わりに宿の下の階からジュード達の声が聞こえたから、大分時間が経ったんだと知る。

寝ちゃってたみたいね……。
懐かしい夢だったなぁ…。

そう思って口元を緩ませながら窓を開けて、手紙を持ってきた鳥を肩に乗せる。

…今日はアグリアからの手紙みたいね。
相変わらずの綺麗な字で、所作とのギャップに少し笑う。

すぐに読もうかとも思ったけれど、階段を登ってくる足音に気付いてそれを大事に内ポケットにしまった。

「セレナ、ジュードがアイテム分けるってよ」

「うん、今行くよ」

扉から顔を出したアルヴィンに笑って返事を返して、私はジュードとエリーゼをねぎらうべく彼の後を追った。




(約束通り剣をくれたあなた)(だから私も、あなたとずっと対等なままで)



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短い!予想外に短くなった…!
とも様、こんな作品で申し訳ないです……。
そして書いてるうちにほのぼのが何なのか分からなくなりました←
まだ15歳のつもりです。
主人公の強さの理由でした。

返品・やり直し要請可能ですのでφ(.. ;)
こんなので良ければもらってやってくださいませ。
企画参加ありがとうございました!



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