第2章:長期任務の幕開け


―――《マンションフレール206号室》



リーシェに連れられてやってきたのが、その部屋だ。



「あっ、俺と兄さんが住んでいる部屋の真向かいだ」

「…という事は、こっちがルドガーが住んでいる部屋か」

「ルルのお家はこっちなんだね」



シンとエルが、ルドガーの住んでいる203号室の部屋に目を向ける。



「あの、こっちの部屋は…」

「俺の部屋だ」



シズクの疑問に、階段をあがってきたリゾットがそう答えた。



「なんで、リゾットさんのお家にウサギ仮面さんがいるの?」



エルは腕を組んで、首を傾げながら何気ない疑問を口にする。



「彼女を通じて、パソコンに詳しい者にインターネット接続の依頼をした。

今、彼女の知り合いが設定をしている最中だ」



エルの頭をぽんぽんっと優しく撫でると、リゾットは部屋の扉を開けた。

部屋の内装は、至ってシンプルだ。

必要最低限な家具以外は置いていない、少し寂しげな空間に思えた。



「リゾットさん? 接続、もうちょっとかかりますけど大丈夫?」



リビングルームの隣の部屋の扉が大きく開いていた。

そこから、カタカタとキーボードを早く打つ音と共に、女性の声が聞こえてくる。



「構わない」


「そう、ならよかった!

ああ、それから一時間したら此処に私の知人がくるけれど、いいかしら?」


「ああ、それよりも休憩してくれ。

早朝から休みなしで働いてるだろ」


「あら…それならお言葉に甘えて」



休むように進められ、メンテナンスをしていた女性はんーと背伸びしながら姿を見せた。

黒生地のTシャツと藍色のデニム。

眠たそうに生欠伸をするその女性に…シズクを除いた三名は驚いた。



「「「カナンさん!」」」


「あら、貴方たちは…」



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



まさかの形で、リーゼ・マクシア次期王妃…カナンとの再会を果たした。



「三人とも無事でよかったわ」

「俺も、貴女とこうして再会できた事を心から嬉しく思うよ。カナンさん」



シンもニコッと笑って、カナンの右手を両手で握りしめて言う。

あら、お上手ねーと朗らかに返すカナン。



「カナンさん…あれからアスコルド工場に行ったんですか?」


「一応ね。でもテロの影響で完成セレモニーは中止。

負傷した乗客の人達を安静させるための避難場所にはなったけどね」



カナン曰く、乗客の二割は死傷者が出たらしい。

今回のテロの首謀者と思われる人物は、既に逮捕されたとの事だ。

そうですか…とルドガーが話に耳を傾けていると、後方でエルがシズクに耳打ちでこう囁いていた。



「シズク、知ってる? カナンさん、おーひさまなんだよ!」

「うん。知ってるよ」


「なんだー、ガッカリ」

「一度会ってるから」



えー、そうだったの…! と目をパチクリさせてエルは驚く。



「シニョリーナ。これでいいか?」

「ありがとう、リゾットさん」



周りが話に夢中の間に、リゾットはエスプレッソマシンを使って、カナン用のカフェラテをつくっていた。

差し出されたカフェラテの香りにうーんと満足そうに唸るカナン。



「…君達は何がいい?」

「あ…お構いなく」


「遠慮するな。それにルドガー…と言ったか。

俺は近所付き合いは大切にしたい性分だ」



フッと笑みを浮かべそう言うと、リゾットは再びリクエストを尋ねる。



「じゃあ…カプチーノで」

「俺はブラックで」

「私は紅茶をお願いします」

「えっと…エルは、エルはねー…」



ルドガー、シン、シズクがそれぞれメニューを言う中、エルはうーんともどかしげに悩んでいる。



「バンビーナ。今日は市場でリーゼ・マクシア産の果物を買ってきたんだ。

オレンジをお勧めするぞ」



リゾットはフォローするように、エルに果実を使った飲料水を勧める。



「じゃあ、エルはオレンジジュース!」

「なーう!」


「そこのガットはミルクをやろう。あとは…」

「私はマキアートで」



今まで黙っていたリーシェが挙手して、カフェ・マキアートをリクエストした。

そうか、とリゾットは頷いてとりかかろうとすると…



「りぞしゃん、ふーたんも~」

「ぴぴぴっ!」

「分かった」



ふーちゃんと雛も追加注文にも、快く了承した。




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