prologue 1 ― 七海の覇王の旅立ち


床に光り輝く大きな魔法陣。

薄暗い大きな部屋全体に異様な存在感を醸し出す、その陣を前に一人の男性が立ち止まっていた。

深い紫色の長い髪を後ろ手に束ねた端正な顔立ちの青年。

年齢は、20代半ばか後半ぐらいだ。

とくとくっと胸の鼓動が速く鳴る。



(久しぶりだ。こんなにドキドキするのは…)



そう、初めて「力」を手に入れて、生まれ故郷を飛び出した時のように…。

青年は高揚感に溢れていた。


そんな彼を見守る様に、後方に八名の人物が並んでいた。

彼より少し背が低い文官の男性、魔法使いの衣装を纏う女性、剣術使いの銀髪の青年…

たくましい身体つきの無口な格闘家。

真面目そうな槍使いの青年、一般人より倍の身体つきの男性…

中には竜人や、小柄な女の子までいる。



「準備はできたか? シン」



魔法陣を隔てて彼の向かい側にいる人物がニヤッと笑って尋ねる。

背の中ばまで伸びている黒髪に、浅黒い肌の勝ち気そうな男性だ。

青年―――シンは真面目な表情で口を開く。



「ああ…ばっちりだ、サラ。少し…緊張してるけどな」

「まー、初めての奴はそうなるもんだ。なにせ、行き先がこことは全く違う“世界”なんだしさ」



ハハハ、と砕けた口調で笑いながら言うサラに、シンもつられて笑みを浮かべてしまう。

だが、そんな緩んだ雰囲気にカツを入れるように、「シン!」と文官の男性が声をあげた。



「ん…ジャーファル、どうした?」


「シン、いえ我らが王よ…やはり八人将の内一人をお供に連れていってください!

貴方お一人だけで、未開の地へ行かせる等…不安でなりません!」



ジャーファル…と呼ばれた文官は心配を隠しきれないと言わんばかりの顔だ。

シンは苦笑して肩を竦める。



「なんだ、俺が信用できないのか?」

「信用していますよ! 酒癖と女性問題以外は!」



彼の言い分に、何人かの部下も頷く。



「…って痛いところを突くな!」


「本当の事だから言うんですよ!

過去、それで私達がどれだけ迷惑被ったと思っているんですか!?」



それに…とジャーファルは苦々しく、サラを一瞥して言葉を続ける。



「私は…本気で心配しているんですよ。

いくら《七海の覇王》と名高い貴方でも…あちらの世界で今までの経験が通じるかどうかも不透明です。

この男性の言う事が真実かどうかも証明できないのです。

そんな危険な所に…貴方一人を送り込むなんて…了承いたしかねます!」


「ジャーファル…!」



シンは部下の失言に苦言を呈そうとするが、それをサラが制した。



「いいよ、シン。本当の事じゃん」



サラは、ジャーファルの発言に不快な顔をせずに、むしろ真顔で返す。



「…ま、敢えて反論するなら、俺は前々からあんたがいう所の『うさんくさい頼みを断ってもいい』って

宣言していたぞ。拒否するなら、いくらでも機会があったじゃねーか?」


「…それはっ…」


「でも、あんたの主は了承した。

それを今更『やめろ』だなんて…虫が良すぎだろ。宰相さん?」


「……っく…!」



サラの反論に、ジャーファルは口を噤んでしまう。



「安心しな。この一ヶ月間、シンにあちらのある程度の知識を教えてやったし、

アイテムもいくつか持たせたんだ。後は、世界の法則に上手く適合すりゃ、

ある程度の問題はしのげる」



だから、心配すんなとケラケラ笑いながら言うサラ。

すると、今まで沈黙してきた魔法使いの女性が口を開いた。



「もし…王の身に危機が降りかかった場合は、私達をその世界に送っていただけるのですね?」

「あたぼうよ。ヤムさん。俺は好きになった奴らには嘘はつかねぇ主義なんでね」



勿論、あんたも好きだぜと片目を閉じて補足すると、女性…ヤムライハは若干頬を赤らめつつ、

こほんと咳をする。



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