第2章:長期任務の幕開け


「…そんなに言いたくない事なんですか」

「さすがに、包み隠さず言うのはリスクがあるからね。シズク君…仕事の同僚だとしても、俺は君に本心を明かすほど距離が縮まっていない」


君だってそうだろ?

逆に指摘されてしまい、シズクは眉を八の字にする。

彼の言い分はご尤もだ。

今までの問いかけをスラスラと答えてくれたのは、彼が答えても致命的なダメージがほぼない範囲内だったからだ。


「確かに…失言しました」


この質問を引きずるのはよくない。

切り替えようと、別の事を聞きだそうとしたその時…


「どうしても俺の目的を聞きたいのなら…提案がある」

「…提案、ですか?」


突然のシンからの申し出に、シズクは静かに言葉を反芻させる。


「取引しないかい?」

「…とりひき?」


「『君は俺が何を探しているのか、知りたい』そして『俺は君がリーシェとどんな賭けをしているのか…興味がある』

タダでは教えられないが、同等の価値のあるモノを共有する“関係”になれば、互いに益はあるし損にはならない」


なるほど…彼はこれを狙っていたのか。


「つまり…私と一時的な【同盟】を組めって言いたいの?」

「話が早くて助かるよ。俺もこの世界に一人だけで行動するのは限界がある。だから、職種は違えど同じ立場の…異世界人の協力者がほしいんだ」

「それが私? でも、シンさんは…」

「正直、君が盗賊である事は望ましくないし、盗賊団の方針に共感できる要素はないよ」


シンの考えはブレていない。

蜘蛛の存在自体を好ましく思っていない上に、シズクにも盗賊家業に戻ってほしくないようだ。


「…だが、俺の願いを素直に聞き入れる気はないだろ、君は」

「はい、もちろん」


キッパリ断言するシズク。

えぇー、もうちょっと躊躇ぐらいしてもいいのに…とシンは少々ショックを受けた顔になる。


「おほん、まあそれはさておいて、俺は君と行動を共にして感じていた事だが…」


シンは咳をして仕切り直しをすると、真面目な顔で言葉を紡ぐ。


「君がリーシェを見張りたいのは、彼女の同行を監視するため…それだけじゃないだろ」


シズクと共に仕事をするようになって、彼女の行動に【ある意図】を感じるようになった。

リーシェを見張るというのは、単に捕獲の意味だけではないのではないか…と。


「“彼女を守る事”―――それが【幻影旅団】団長から言われた本当の任務じゃないのか?」

「………………」


シンの口にした仮説に、シズクは沈黙する。

つまり「肯定」だという意味。

自らの仮説が確信に変わり、シンはさらに追及の言動を繰り出す。


「そうなると、彼女と君達との間でかわされた賭けの内容は…彼女の進退、いいやそれだけじゃない、‟生死にすら関わる”内容じゃ…」

「なんで…シンさんは、リーシェさんをそこまで気にするんですか?」


シンの言葉をシズクが遮った。

彼女のその疑問にシンは一瞬、戸惑いの感情を顔に露わにするが、すぐに笑って取り繕う。


「彼女に興味があるからだよ」

「興味があるだけの第三者なのに、賭けの内容まで知りたがるの? …それだけじゃないはずです」


シズクは眼光を鋭くしてその言葉を突き付けた。


「貴方は…リーシェさんを通して別の【エクレシア】を見てるんでしょう?」

「…君も痛い所を突いてくるね」


シンは微かに顔を歪めて呟く。

どうやら、その質問事項は彼にとってカウンター技に等しいものだったらしく、効果はジワジワきているようだ。


「もし同盟を組むとしたら、条件があります。シンさんがそれをOKしてくれるなら…私もすべてはムリだけど、話せる範囲で情報を提供します」


どうしますか?

シズクは真っ直ぐシンを見据えてそう告げた。

彼はこの提案に乗ってくれるだろうか…


シンはこちらを神妙な面持ちで見つめている。

その目に拒絶や嫌悪の色は見当たらない。

…ほんの刹那だったか、それともかなり間を置いた時間だったか。

彼が唇を動かして、導き出した答えは―――



「条件を聞かせてくれ」



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