第2章:長期任務の幕開け
ミュゼとの邂逅後、研究所に残存していたアルクノア兵は、カナン次期王妃の護衛と応援に
駆け付けたエレンピオスの軍によって1人残らず捕えられた。
ジュードとカナンは、怪我人の治療をするために研究所へ残る事となった。
エリーゼは、解放された級友と学校関係者のもとへ戻り、アルヴィンは所長のバランと
話し合うため暫くヘリオボーグに留まる予定だ。
若干の不安要素を残しつつ、民間人を巻き込んだヘリオボーグテロ事件は、
こうして幕を下ろした。
「ふぅ…疲れた」
「いっぱいお仕事したからね」
「テロ組織を一掃したり、パラレルワールドに行ったからな」
「……精霊にも遭遇して奇妙な1日でした」
ルドガー達は電車内で話しながら、帰路についた。
~♪♪♪ ~♪♪♪
駅に着いて改札口を通った時、ルドガーの携帯の着信音が鳴った。
「はい」
『どーも、お久しぶりです』
着信先を見ずに出たら、電話の主はリーシェだった。
「だれから?」
前方を歩いていたエルが立ち止まり、首をコテンとさせて尋ねる。
同じく、シンとシズクもこちらへ振り向き注目する中、ルドガーは答えるのを躊躇してしまう。
『今日の深夜…明日の午前1時にマンションフレールの公園で。それでは』
リーシェは簡潔にメッセージを言い残すと電話を切ってしまった。
「…いたずら電話だった」
「えー、ヘンなこと言われたの?」
「相手の名前、これから見た方がいいよ」
エルは心配そうに、シズクが気を付けた方がいいとそれぞれ言う。
うん、そうするよと苦笑して誤魔化す事にした。
この時、シンが探るような目で観察していたのをルドガーは気付かなかった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「お帰りなさい」
事務所へ帰ると、リエがふわりと微笑んで出迎えてくれた。
ただいまーと笑顔でリエに抱き付くエル。
「今日もいーっぱい、がんばったよ!」
「そう、よくできましたね」
笑顔で報告をするエルを抱擁したまま、リエは頭を優しく撫でる。
エルは、えへへと嬉しそうに彼女に甘える。
(たしか…エルは幼い頃に母親が亡くなったって言ってたな)
だからだろうか…母性と包容力に溢れているリエに凄く懐いている。
常日頃、ルドガー達に『対等な関係』を主張して背伸びしようとしているが、
やはりまだ8歳の甘えたい年頃だ。
ルドガーも、幼かった頃は友達の母親がいる家庭が羨ましかった。
両親のいる家庭に少々の憧れはあった…兄がいたため、寂しい思いはしなかったけれど…。
「報告は夕食の後にしましょう」
「あ、もうそんな時間なんだ」
「道理で腹がすくわけだ」
シズクは置き時計に視線を向けると…時刻は午後8時20分。
シズクの言葉に、シンは腹部を擦りながら苦笑する。
「皆さん、手を洗ってきてくださいね」
「「「「はーい」」」」
4人の返事は綺麗にはもった。
本日の夕食の献立は、ライスと肉じゃが、焼き魚、キノコの味噌汁、ほうれん草のおひたしだ。
「おいしーvv」
「この肉じゃが…芋が煮崩れしてないけれど、何かコツがあるんですか?」
「ええ、それはね…」
「肉と魚が両方味わえるなんて…今日はついてるなー」
「もぐもぐ…シンさん。御飯のおかわりはいいけど、ほどほどにしてくださいね」
ルドガーが肉じゃがの煮崩れをしないポイントをリエに教えてもらう傍ら、
エルは肉じゃがとライスを交互に食べてんんー!と舌鼓を打つ。
シンは早くもライスのおかわり3杯目に突入しており、シズクは咀嚼し終えるやすかさず注意する。
テーブルの下では、ルルがリエ特製ねこまんまをがっつりほうばっている。
賑やかだけれど、とても和やかな雰囲気に包まれていた。
「このクリームケーキ、リエさんがつくったんですか?」
食後のデザートは、三種類のフルーツを使ったクリームケーキ。
ルドガーは一口食べた瞬間、時を忘れそうな錯覚に陥った。
あまりの美味しさに感動してしまったのだ。
「いいえ、違いますよ」
リエが作ったものではないらしい。
そうなると…どこの菓子店で購入したのだろう?
料理にこだわりのあるルドガーは、是非ともこのケーキの出所を知りたい衝動に駆られてしまう。
「このケーキは、私の娘が制作したものです」
「え~! ウサギ仮面さんが!?」
ケーキを半分食べ終えたエルが吃驚する。
「フフッ、惜しいわね。正解はリーシェのお姉さん」
リエは朗らかに笑って、ケーキをつくったのは違う子の方だと明かした。
ルドガーは咀嚼しながらある事を思い出す。
(そういえば、リエさん…もう1人娘さんがいたんだっけ)
リーシェにとったら、双子の姉にあたる人。
顔も似ているとカナンが言ってた気がする。
料理の腕もプロ並み…料理人を目指していた身として一度会ってみたいものだ。
「リエさんは幸せですね。こんな美味しい料理をつくれる娘さんがいて」
シンがニコリと笑ってそう言った。
その隣で、モクモクとケーキを食べているシズクの視線が時折、
彼に向けられている事にルドガーは気付いた。
あたかも、彼の言葉や仕草を注意深く観察しているようだ。
「ええ、リーシェと『あの子』、2人とも自慢の娘です」
「その娘さん…今はどちらに?」
シンがさりげなく質問を投げかけた。
「此処とは違う世界にいますよ」
「そちらで…リエさんのように滞在してるんですか?」
「ええ、暫くの間旅をお休みして、その世界で定住しています。
長年の夢だったお店も開いてね…」
リエは軽く目を閉じて、穏やかな口調で答えていく。
「…………………それはよかった。
おめでとうございます」
長い沈黙の後、シンは安心した様に呟く。
「まるで自分の事のように言うんですね」
ケーキを食べ終え、紅茶で喉を潤していたシズクがぽそっと感想を言う。
「俺も昔、夢を叶えるためにかなり紆余曲折を経た身なんだ。
リエさんの娘さんもきっと店を構えるまで相当苦労したんだろう
…だから他人事とは思えなくてね」
「…夢はかなったの?」
「1つはね。けれど、まだ完全に叶えた訳じゃない。
いずれ…いやきっと現実にしたい」
エルが興味津々に尋ねると…シンは意味深げにそう答えた。
(シンの夢って…)
まだ未完成と主張するからには、規模の大きいモノなのはなんとなく分かった。
必ず成し遂げたい…真剣な顔でそう語るシンの姿に、ルドガーは感興を覚える。
「フフッ…『あの子』がいたら、きっと喜ぶでしょうね。
積み重ねてきた努力を認めてもらえるのは、誰でも嬉しい事ですもの」
リエは微笑して『ありがとうございます』と娘の代わりに御礼を言った。
シンは「いえいえ」と笑顔で受け答えする。
それから終始、和やかな雰囲気に包まれたまま、夕食は終わった。
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