第2章:長期任務の幕開け
「リーシェさんがいつ来るかは分かりますか?」
「うーん…そこまではちょっと。アドレスは交換したからメール待ちだよ」
バランの言葉に、シズクは「そう…」と困ったように視線を落とす。
「ユリウスはいない、リーシェも行方不明か…また振り出しだな」
「一旦、事務所に戻ろう」
「そうだね…【カナンの地】のジョーホーがでてるかもしれないし!」
「【カナンの地】…?」
事務所へ帰って今後の予定を立て直そうと話し合っていると、バランがエルの言った単語に反応する。
「…そういえば、ユリウスもそんな事言ってたような」
「ユリウスさんからその場所について何か聞いたんですか?」
「いや…でも時々独り言のように呟いてたのは覚えてるよ」
ジュードがそれとなく訊くが、バランも詳細は分からないらしい。
「そもそも、【カナンの地】とはどういう場所なんだろうな?」
「魂を循環させる聖地よ」
シンが何気なく口にした疑問に、誰かが答えた。
ルドガー達には聞き慣れない声に視線を彷徨わせる。
ジュードがふと上を向けると…
「ミュゼ!」
「こんにちは、ジュード」
上空に浮かんでいる女性がいた。
年齢は20代くらいで、膝の下まである豊かな髪に、有名な芸術家が描いたモデルの様な整った容姿、
些か浮世離れした服装を身に着けており、羽を生やしている。
「え、ええっ? あの人って…」
「なにあれ!?」
「精霊ミュゼ」
『ミラのお姉さんだよー』
驚くルドガーとエルに、エリーゼとティポが説明する。
ミュゼは屋上へ舞い降りると、その場にいる全員に視線を移していく。
「懐かしいわねぇ…知らない人も何人かいるけど」
「あの人が精霊なんだ…」
「いやぁ、美しい方だな!」
シズクは初めて目にする人型の精霊をジィーと観察し、シンも素直な感想を言う。
「ミュゼ、精霊界にいたんじゃなかったの?」
「あら、カナン!」
カナンを目にするや、ミュゼはパァ…と顔を明るくして、浮遊したまま抱き付いた。
「うわっと…」
「ああ、カナンもいたのね! 凄くいい香りのマナが漂っていたから…
もしかしたらとは思ってたけど、うれしーいーvv」
ミュゼは、その言葉通り全身からハートを飛ばすくらい喜んでいる。
先程とは打って変わったハイテンションぶりに、ルドガーやエル、シン、シズクはポカーンとしてしまう。
ミュゼと面識のあるジュード達は、生温かい眼差しや乾いた笑みを送っていた。
カナンは勢いよく抱擁してきたミュゼを「はいはい」と子どもに言い聞かせる感じで
落ち着かせようとしている。
「それで? なんで人間界に来たの?」
カナンが改めて尋ねると、ミュゼは悲しげに顔を曇らせる。
「ミラがいなくなっちゃったの」
「いなくなった…?」
彼女の言葉に、ジュードは時が止まったかのような錯覚を起こした。
「魂の浄化に問題が起きたと言ってたわ。
私の力を使って精霊界を飛び出した後、連絡がつかなくなっちゃって…」
「連絡が…他の四大精霊も応答がないの?」
「ええ…私、いてもたってもいられなくなったの。
ジュードなら分かるかも…って思ったんだけど」
ミュゼは縋るようにジュードに目を向ける。
「人間界に来てるんだ。ミラ…」
「その様子だと…会ってないのね」
ミュゼがそう問うと、ジュードは無言で頷いた。
「…捜さなきゃ。ねぇ、カナン…ミラを見つけたらよろしくね」
「ええ、もちろん」
ミュゼは妹の捜索を懇願すると、カナンは力強く頷いた。
ありがとう、とそっと笑みを零すと、ミュゼは大空へと姿を消した。
・
