第2章:長期任務の幕開け


屋上を訪れたが、肝心の探し人の姿はなかった。



「誰もいないな…」

「べつの所にいるのかな?」

「いいえ、いるわ」



ルドガーとエルがそう言うと、カナンは緩慢に首を左右に振って否定する。



「え、どこに?」

「あそこ」



カナンが指を差すと、アルヴィンが「ああー…そういや」と合点がいったようにそこへ視線を向けた。



「出てこいよ、バラン」



アルヴィンが呼びかけると、斜め上の建物の物影からひょこっとその人物が姿を現した。

眼鏡をかけ、研究者の制服を着た20代後半くらいの男性だ。



「やあ、アルフレド、カナンさん。よく分かったね」

「ガキの頃から隠れ場所変えなさすぎ」

「ご無事でなによりだわ、バランさん」



バランはゆっくりと梯子を下りていき、こちらへやってきた。



「紹介するね、この人がバランさん。

研究所の所長で、僕と源霊匣研究を進めている統括者の人です」


「はじめまして、それから久しぶりの人も何名かいるね。

そこにいるアルフレドとは従兄弟同士なんだ、よろしく」



ジュードからの紹介を続ける形で、バランはフレンドリーな口調で挨拶してくる。

【所長】という肩書から、気難しげな中年の男性をイメージしていたが、

リエの時同様に予想が覆されてしまった。



「バランさんに確認したい事があるんですが…」

「ん、なんだい?」



ジュードが、屋上に辿り着くまでの経緯を説明した。

それから念のために、再びヴォルトの化石を使って【源霊匣】を実験したか尋ねると…



「ないない。一年前の事忘れてないよね?

大体、制御の件でまだうまくいってないのに、大精霊クラスをつくるなんて無茶すぎだろ」



あり得ないよ、と苦笑して肩を竦めるバラン。

ですよね…とジュードも少し残念そうに眉を下げる。



「あの…質問いいですか?」



頃合いを見計らったように、ルドガーが挙手した。



「ユリウス…兄がこちらへ来ませんでしたか?」


「へぇ、君が弟さん? あいつ、仕事の話はするけど、家族の事とかは話さないからな。

けど、考えてみたら…あいつ長男っぽい性格だな」


「で、知ってるの? ルドガーのお兄さんのジョーホー」


「ご期待に添えなくてごめん。ユリウスとは半年くらい会ってないよ。

知人経由であいつが長期休暇とったって噂ぐらいしか知らないな」



ユリウスは、バランとは接触していなかったようだ。

そうですか…とルドガーは軽く溜息を漏らした。



「すみません、私もいいですか?」

「今度はどんな質問かな?」



交代するように、シズクがバランに尋ねた。



「リーシェ・シフォン・クローチェっていうウサギの仮面をつけた女性を見かけませんでしたか?」


「ああ、クローチェ先生。

彼女だったらついこの間会ったよ」


「…! いつ頃ですか?」

「彼女は何の目的で研究所へ?」



シズクとシンが真剣な顔で同時に質問を投げかけた事に、

バランは慌てて「ちょっとちょっと!」と手を交差させる。



「そんなに一斉に問いただされると困るよ。

えっと…一週間前だったかなー」



*** ****** ***



クローチェ先生、別の用件で研究所へ訪れていたみたいで…用事までは分かんないね。

その日、俺は会議が終わったから休憩しようとちょうどココ(屋上)まで来たんだ。

その時、彼女も此処に居てね。


エレンピオスの医学界では有名な人だったし、源霊匣にも関心があるって言うじゃないか。

だから、コネ作りも兼ねて色々と話したんだ。



『なかなか興味深いですね…私も医療従事者の端くれとして貢献したいな』



驚いたよ、クローチェ先生も意外と乗り気になってくれてね。

現在の研究状況や資金調達が難しい現状もそれとなく言ったら、

知人に紹介して資金調達してみようって提案してくれたんだ。



『また、時間ができたらこちらへ来ます。

今度は研究の詳細も提示してください』



*** ****** ***



「…てな訳で、新しい資金提供者になってもらえそうなんだ!」

「ええ、そうなんですか!?」


「まだ確定していないから、他の皆には話してないけど…

これで当面の研究費はなんとかできそうだ♪」



ウキウキした口調で語るバラン。

彼の話を聞いたジュードは『信じられない』と大きく目を見開くが、

徐々に驚きと喜びが顔に滲み出てくる


源霊匣の研究は難航していた経緯から、新たな共同出資者が名乗り出てくれた事は、

彼等にとったら渡りに船の申し出なのだろう。



「よかったな、ジュード」

「うん…なんか久しぶりに嬉しいニュースだよ」


「それにしても、そのウサギ仮面の女医さん…どんだけ稼いでるんだ? 

次世代エネルギーの開発なんて途方もない巨額になるのに…」



アルヴィンが胡散臭そうに、不気味に笑うリーシェの姿を想像する。



「きっと、貯金をいっぱいしてるんですね」

『地道にコツコツ稼いで…塵も積もれば山となる~』


「いやいや、一般の医師で億単位の金額稼ぐのはムリな話だろ…」



エリーゼとティポの推理に、アルヴィンがありえねえーよと半目で否定する。



「あまり詮索しない方がいいわよー…」



カナンが気まずそうに視線を逸らしてボソッと呟く。



「…どーして?」

「世の中には追求しない方が幸せな事だってあるのよ。エルちゃん」



エルが訝しげに聞き返すと、カナンはフフッと笑って誤魔化す。



「…うん、確かに」

「時には空気を読む事も必要だな」



ルドガーとシンは、彼女の言いたい事を察したのか、言葉を濁した。




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