第2章:長期任務の幕開け
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ルドガー達が三度目のパラレルワールドに足を踏み入れる直前、ウィンクルム社に珍しい客が来ていた。
「いらっしゃいませ。待ってましたよ」
玄関の扉を開けたリエはふわりと微笑んで、その客を招き入れる。
「元気そうで安心したわ、お店の方は?」
「いつも通り、今日はアーサーさんに任せてきたから」
髪と瞳の色以外は、ほぼ母親のリエの遺伝を受け継いだ娘…コゼットはそういうと、
手土産をいれた手提げ袋をリエに渡した。
応接室へ案内され、コゼットは来客用の椅子へ腰を下ろす。
数分後、リエはコゼットの手土産…三種類のフルーツのクリームケーキを切り分け、
皿にのせたものと、紅茶を運んできた。
「このケーキは、来月から新発売する予定のものなの。食べて、感想を聞かせてくれる?」
「じゃあ、いただきます」
娘の要望に応えるため、すぐにフォークで、すっと切り分けて一口食べてみた。
口に広がるフルーツの甘さ。
スポンジはふんわりと柔らかく、舌触りがいい。
クリームはスポンジとともに甘さを控えめにしている…
しかしそれはフルーツの良さを引き立たせるため。
それぞれの味が口内で混ざりあう中、喧嘩する事なくバランスのいい味へと仕上がっていく。
「美味しい」
「そう言ってもらえると、作り手として光栄だわ」
母の素直な感想に、コゼットはふふっ…と喜びを頬に浮かべる。
「母さんはどうなの? 仕事の方は」
「そうね…。つい最近になって新しい従業員が増えたわ」
「へぇ…エレンピオスの人をとうとう雇用したのね」
ルドガー達が入社する前まで、ウィンクルム社の従業員(非正規雇用者も含めて)は
全員、異世界出身者ばかりだった。
ルクソードの所属する組織、13機関のメンバーおよび配下ノーバディ。
リエと契約をした人ならざる者やほさ部のドラえもん経由で派遣されたミニドラ達。
レベルの差はあれど仕事の依頼は事欠かない事務所だが、人数不足が難点だった。
配下ノーバディ、社長代理であるルクソードとシオンを除くメンバーは、本来の組織の仕事に
専念しなければならないためだ。
上記の理由ゆえに、リエは仕事内容や分担する量に細心の注意を払っていた。
アイテム探しや情報収集といった、回転率の早い仕事は専ら配下ノーバディに任せている。
シオンには、配下ノーバディと同じ仕事にプラスする形で魔物討伐のハードな仕事を
受け持ってもらう事もしばしば。
けれども、同年代と遊びたい盛りの少女に負担をかけさせない様、できる限り最小限にしている。
リエとルクソード(時々、グリューネ)は、それ以上に重要な案件を担当していた。
リエは雑用から、事務所の経理や接客…特定の要人からの特別依頼など幅広い量をそつなくこなしている。
ルクソードは、対外的な交渉は勿論の事、裏社会を通じての駆け引きではなくてはならない人物だ。
リエ自身が対応する事もできるが…
外見から対象者に舐められ、足元を見られるケースを危惧したルクソードが自らその役割を志願した。
そのため、事務所の最高責任者であるリエの顔を知る人物はごく限られている。
敢えて顔を表に晒さないのは、リエ自身が任務に直接携わり、円滑な行動をするための手段でもあるからだ。
あのクランスピア社のビズリーさえも、未だにリエの存在を掴めていないのだから、
如何に彼女が巧みに行動しているのかが窺える。
「新しい社員がきてから、仕事がラクになったわ。
熱心に仕事に励んでくれてとても助かっているの」
「よかった…母さん、無理するところがあるから倒れないかって心配してたもの」
エクレシアの中では何かと事件に巻き込まれやすい体質ゆえに、苦労が絶えない母
(当の張本人は全くそう思っていないところが歯痒い)。
そんな母が称賛するくらい、エレンピオス人の新入社員達はよほど優秀の様だ。
(母の負担を取り除いてくれてありがとうございます)
この場にいないその新入社員一同に、コゼットは胸中で感謝した。
「…ところで、コゼット。聞きたい事があります」
「なに?」
リエが改まった態度で尋ねてきた。
きょとんと小首を傾げるコゼット。
「もしも、過去に異世界で知り合った人と再会したら、貴女ならどうしますか?」
「??…唐突な質問ね」
投げかけられた意味深げな問いかけ。
コゼットは何か意図があるのか…と難しげに眉を寄せる。
(…あッ! お母さん…昔の知人をエレンピオスで見かけたのかしら)
なるほどね、とピーンときた。
でもそうなると、その対象者はどういう経緯で異世界に足を踏み入れたのだろう?
「…さらに、その人はある複雑な事情を抱えていてそれを解決するために故郷を離れて
異世界に滞在しています」
浮上した謎はリエが続けた追加説明で解かれた。
母の知人は相当な問題をしょいこんでいて、その問題の解決の糸口がこの世界にあるらしい。
通常、母ならそういう対象者には助言をしたり、親しい間柄ならサポートしていくはず。
それを娘である自分に意見を求めたという事は…リエがその人物を手助けすべきか否か…迷っている証拠だ。
性格面に問題があるのか、または距離感があるのか…?
「人柄はよくて魅力あふれる若者ですよ」
またしても脳内で浮かんだ別の疑問に、母はすぐに答えてくれた。
そういえば、母は【例の能力】があるからこちらの気持ちは伝わってしまう事を思い出した。
「遠回しに訊いたから困らせてしまったみたいね…ごめんなさい。
率直に言うわ。ねぇ、コゼット…」
リエは一呼吸置くと、真っ直ぐにコゼットを見据えて改めて質問した。
「貴女の昔話によくでてくる友達…『シン君』がその悩みを抱えている人物だとしたら、
貴女は彼に会いたいですか?」
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