第2章:長期任務の幕開け


ルドガー達は落雷があった開発棟の屋上へ急いだ。



「あとちょっとだよ」



ジュードは職員カードを用いて、一般人は入れない通路を利用する。

このパラレルワールドでは、アルクノア兵は徘徊しておらず、途中で職員や警備兵に遭遇するが、

順調に目的地へ進んでいる。



「なんか実感がわかねえな…」

『ホントー、さっきとまったく同じなのに違うなんて頭がこんがらがりそー』



道を進む中、パラレルワールドの件をアルヴィンとエリーゼ、ティポにも伝えた。

彼等は、不思議な現象に遭遇している事に半信半疑のようだ。



「無理もないさ。俺達もこの現象の事、まだハッキリと分かった訳じゃないんだ」

「僕は二度目だけど…ルドガー達は三度目なんだね?」



ジュードが何気なく尋ねた事に、ルドガーは「ああ…」と頷く。



「できれば、あんなパラレルワールドは二度とお目にかかりたくないな」

「うん…エルもそう思う」

「………」



シンが眉を潜めて言った言葉。

エルも怯えた表情で彼の意見に同意し、シズクは沈黙を貫く。

彼等の態度に何かを感じとったのか、ジュードとアルヴィンはあまり深く追及しなかった。



「さっきのあの雷、一年前を思い出しますね」



エリーゼが何気ない疑問を口にして、話題を変えようとする。



「一年前…?」

「確か、ジュードが此処の研究者になる前だよな」


「うん。一年前に僕とアルヴィン、エリーゼ…

他のみんなとこの研究所に初めて訪れた時にハプニングがあったんだ…」



一年前、特殊な経路でエレンピオスにやってきた時の事をジュードは語りだす。

ある人物によって、研究中だった源霊匣に大精霊ヴォルトの化石が使われ、大暴走を起こした事を…。



「大変だったんだな…」

「その大精霊はどうなったんですか?」

「化石に戻ったよ。あの時はホントにヒヤッてしたぜ…」



アルヴィンは当時の事を思い出して、うへぇ…と苦々しい顔で腕を擦る。

その様子から、ヴォルトとの戦いは彼にとってあまり気持ちのいい思い出ではなさそうだ。




  ゴロゴロッ!



「うぅ…またッ!」

「まだ屋内だから大丈夫だよ」



雷の盛大な落下音はまだ続いている。

エルはそれが聴こえるたびに、シズクの手をギュッと握りしめたままビクついている。



「…雷は私も苦手ですね」

『むしろ得意なヒトをさがす方がシナンのわざでしょー』



時折耳を抑えたりしているエリーゼ。

彼女の意見にティポは大いに賛同する。



「…俺はそんなに嫌いじゃないよ」

「「ええっ…!」」『すごー!』



彼女らの話を聞いていたシンはぽつりとそう口にした。

彼の発言にエルとエリーゼは驚愕し、ティポが尊敬の眼差しを向ける。



「そういえば…この間、パラレルワールドで敵を攻撃した時のシンの技…雷だったよな」



それが関係してるのか、とルドガーが尋ねると…



「俺は故郷にいた時に、雷を司るまじ…いや精霊みたいなものと会った事があってね。

彼の加護を受けているんだ」


「精霊の加護…シンさんの故郷って、そんなに精霊信仰が盛んな場所なんですか?」


「『盛ん』か…そうとも言えるな。いろんなタイプがいるし…」



シンの語る話に、ジュードは興味深そうに耳を傾ける。



「なぁ、ルドガー…シンってリーゼ・マクシア出身か?」

「多分そうだと思うけど…」


「ふーん…だとすると、ラ・シュガル方面じゃなさそうだな。

ア・ジュールあたりか…」



何か引っかかるような言い方だ。

ジュードと話が弾んでいるシンを見るアルヴィンの顔は警戒感が薄ら滲み出ている。



「…っていっても、まだ情報が少ねえから保留だな」



アルヴィンは、シンの素性が気になっているみたいだ。

よくよく考えてみると、シンは今まで故郷の話はしても、『故郷はリーゼ・マクシア』だとは

一言も言っていない。


異世界出身で盗賊であると公言したシズク以上に、彼は謎が多い。



(シンも…シズクみたいにいつか話してくれるといいな…)



少なくとも、ルドガーはどんな秘密があるにしろシンの事を信用している。

一緒に働いていて、彼が人を傷つけるような悪人とは思えないからだ。



「大丈夫。シンはいい人だよ」



アルヴィンにもその事を分かってもらいたい。

ルドガーは自信を込めて笑い、その言葉を付け足す。

アルヴィンは「信頼してるんだなー」と肩を竦めて一笑した。




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