prologue 5 ― 動き出す運命の針


ヴィクトルはハッと後方を振り向く。

追手がもう迫っていた。


「船へ!!」


父の掛け声に、エルは急いで駆けていく。



「エル…! 大丈夫…絶対に大丈夫だ! お前なら必ず《あの人》に逢える!」



襲いかかる無数の銃弾を剣で跳ね返しながら、ヴィクトルは大声で言う。



「パパ…《あの人》って…!」

【幽玄なる祈り人】―――エルを助けて…《カナンの地》へ導いてくれる女の人だ!」



船に乗り込んだエルに、ヴィクトルはそう言うと、双剣をシュッと上空へ放り投げた。

二振りの剣は時計回りに回転しながら、片方は船を繋げていた紐を斬り、

もう一方は船のエンジンを起動させた。

動き出す船―――エルは、未だに敵の注意をひきつける父に向かって叫ぶ。



「パパは!?」

「パパも必ず行く」



娘にそう断言した直後、ヴィクトルは追手の銃弾の嵐をさらされた。

凶弾を受けて崩れ落ちる父の姿…。

進んでいく船に座り込んだエルの目に、受け入れがたい戦慄の光景が刻まれる。



「パパァ―――――ッ!!」



カチカチカチカチ…



懐中時計の針が動く。

暗雲を暴れる雷光が落ちた瞬間―――船は彼方へ消えていった。





【prologue 5 ― 動き出す運命の針】





豪雨はやまない。

船場に横たわるのは、武装したたくさんの侵入者達。

最早、物言わぬモノとなった彼らを静かに見つめるのは、体中を鮮血で染めた男性…ヴィクトル。



「……今度こそ行くんだ。―――《カナンの地》へ



彼は装着していた仮面を外し、青緑色の瞳を鋭利に細めてそう呟く。

あたかも、降り注ぐ雨に刃向うように…。





《第1章へつづく》

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