第2章:長期任務の幕開け
「お待たせしました」
会議を始めて五時間少々。
ジャーファルのその一声は、人選が決まった合図だ。
「お、誰が行く?」
水鏡を見ていたサラの目が、ジャーファルを含める八人将を捉える。
この中の誰が次の渡航者となるのか?
吟味するように、一人一人に視線を移していくサラ。
(…まず、ドラコーンの旦那とヒナさんは外れるな)
軍の統率を担う将と、周海警護の指導者が不在となれば、有事を考えるとデメリットが多い。
(…外勤担当の二人も除外)
ヒナホホ同様に、商船警護等の仕事に携わる事が多いスパルトスとピスティも、
国を離れる訳にはいかない。
(…国内の守備のためには、ヤムさんはいないとな…)
敵からの奇襲を防ぐ為に、ヤムライハはシンドリア全体に防御結界を張っている。
防衛の面から、彼女が出動するのはリスクが高すぎる。
他にも、国内の治安維持の面から、少なくとも幹部クラス最低一名はいた方がいい。
以上の事から…自ずと選出される者は一名となる。
「此度の遠征および王警護の任務は…マスルールを行かせます」
「…うし、りょーかい」
ジャーファルの回答に、サラは快く承諾した。
サラは、シャルルカンとマスルールのどちらかになりそうとは思っていたが、後者が選ばれた。
念の為に8名分の各々に必要なアイテムを用意していたが、1名分だけで済みそうだ。
…ここまではサラにとって想定内だった。
「あの…すみません」
マスルールが口を開くまでは。
「なんだい? マスさん」
「あっちの世界へ行けるの…一人だけですか?」
マスルールの唐突な質問に、サラは「んんん?」と眉を潜める。
彼の発言は、ジャーファルと他の八人将までもギョッとする。
「別に一度に複数送れるけどさ…どしたの?」
「いえ、王様のところに行くのは問題ないんです。
ただ…俺だけでいいのかなって思って」
表情の機微が乏しいマスルールが納得できないという感じで言った。
「なんだよ、マスルール…一人じゃ心許ないってか?
仕方ねえなー。じゃあ俺も…」
「いえ、先輩は心おきなく仕事に励んでて構わないっス」
「…てごらっ!! 人の親切をバッサリか!」
シャルルカンの提案をあっさりと断ったマスルール。
うぎーと青筋を立てて怒る彼を、ヒナホホがまーまー落ち着けと羽交い絞めにして
落ち着かせようとしている。
「つまり、マスさんは指名したい人がいると?」
「………はい」
マスルールは長い間を置いて頷く。
「俺…ジャーファルさんもいっしょに来てほしいんです」
「なっ…!?」
彼の発言に、名指しされたジャーファル本人は絶句した。
「…え、ジャーさんをご指名?」
「はい」
これには、サラも目を見張った。
確かに…今回の追加渡航を依頼したのはジャーファルであり、その張本人が現地へ行くのが筋だろう。
しかし、サラを含めた他の八人将にはそのような考えは全くなかった。
なぜなら…
「マスルール君…いくらなんでもそれは難しいわよ」
「ジャーファルさんが国で一番忙しいって知ってるでしょ」
ヤムライハとピスティが指摘するように、ジャーファルはシンドリアの政務官であり、
国の実務を担う中心人物だ。
新事業の立案や財源確保などの予算組から、国家のインフラ整備…etc。
多数の仕事を抱えている彼が長期間、国を抜ける事は混乱を招きかねない。
「…やっぱムリっすかね」
「そもそも、マスルール…お主は何故ジャーファルを連れていきたいのだ?」
その理由を話してくれぬか、とドラコーンが言う。
将軍の言葉に、マスルールは顔を少し俯けながら語りだした。
「ジャーファルさんが…大変なのは分かってます。
でも…最近、ジャーファルさん…仕事のスピードがゆっくりになってる気がします」
「…!?」
言われた事に、ジャーファル本人がドキッとマスルールへ視線を向ける。
「そうかぁ…王様がいなくなった後も、テキパキ執務こなしてたよな?」
「うん、私もそう思ってたけど…」
シャルルカンとピスティは、その事を聞いてもあまり信じられないといった様子だ。
すると、ヒナホホがいや…と目を細めて口を開いた。
「マスルールの言う通りだ。
ジャーファル、お前…この所上の空が多いぞ」
「ヒナホホ殿…」
「文官達もお主の事を心配していた。
…気になるのだろう、王の事が」
「…ドラコーン殿」
古参の二人から言われた事で、ジャーファルは唇を噛みしめる。
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