prologue 4 ― ささやかな休日のひとこま
―――《川辺の小都 ディール》
エレンピオスの地方都市だ。
荒廃が進んでいる影響で、近くにあるウプサーラ湖は涸れており、川の水量も
かつての5分の1までに減っている。
しかし、他の都市に比べて自然は残っている数少ない地域であり、地下水を利用して
魚の養殖を行い、街の名物にしている。
「お待たせいたしました」
この街の有名レストラン【オーヴェルジュ・トロータ・ダイニング】
コトッとテーブルに置かれた温かいブイヤベースに、カナンは待ってました、と小さく笑みを浮かべる。
スプーンでだし汁を掬って飲む。
(うーん…おいしい~♪ 濃厚な魚介のうまみがぎゅってつまってる…)
エレンピオスは、食の味ではリーゼ・マクシアに及ばないと言われているが、
この町の新鮮な魚介料理はそれに負けない位のレベルだ。
付け合わせの少し固めのパンをスープに浸して一口ほうばる。
食事を楽しんでいると、他の席の女の子(就活学生だと思われる)同士の会話が耳に入った。
「今度のアスコルド自然工場のセレモニーのチケットとっちゃった!」
「えぇー、マジで!? でも、あんた野菜そんなに好きだったっけ?」
「ほら、クランスピア社のビズリー社長がくるでしょう!
彼にさりげなく近づいてサインもらおうかなって…」
「意外…あんたって、年上好きだったのね…」
彼女達は、カナンの席から離れた所で話している。
しかし、聴力が凡人以上にいいためか、例えひそひそとした小声でも通常レベルで聞こえてくるのだ。
さらりと受け流す程度に聞いていると、ある話の内容に耳を止めた。
「そういえば…リーゼ・マクシアの次期王妃様もくるって!」
「ああ~、ニュースで言ってたわね…。
あそこの国って、精霊術…? っていうヘンテコなのが使えるんでしょ?
黒匣なしで生活してるって、マジありえないんだけど…」
さりげない話の中に含まれる『本音』
エレンピオスのリーゼ・マクシアに対する偏見は強い。
和親条約が交わされたとはいえ、両国間の確執の根は深い。
先ほどの女性は、悪意があってそう言っている訳ではないのだろう。
両国が分かり合うためには、まだまだ交流が足りなさすぎる。
(…時間がかかりそうね)
そう思いながら、ブイヤベースを食べ終えるとカナンは会計を済ませるために立ち上がった。
まだ、話に夢中な女性二人組のそばを歩いていく。
その時、そよ風がカナンのアメシスト色の長い髪をふわっと靡かせる。
「ねぇ? 今、通った人…マジ綺麗じゃない!?」
「モデルの人かな~。でも…どこかで見たような」
通り過ぎる彼女の姿に、その女性二人だけでなく、周りにいた客も見惚れていたようだ。
【prologue 4 ― ささやかな休日のひとこま】
―――― プルル、プルルルル
「はい、ああ…ウィンガルさん?」
宿屋をチェックアウトした直後に、携帯の着信音が鳴ったのででると、相手は契約者の側近だった。
「うんうん…解りました。じゃあ、電車に乗ってそちらに行きますね」
簡潔にやり取りを終えると、ピッとを通信を切ったカナン。
「次は、マクスバードで会談っ…と今日もゆっくり休めないかな…」
次の予定のために、カナンは駅へ歩を進める。
…生き生きした表情で、しっかりとした足取りで。
【つづく】
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