第2章:長期任務の幕開け
「なるほど…例のエクレシアと面識を持った人たちが、貴方達だったのねー」
リゾットから詳しい話を聞きながら、カナンはみじん切りのにんにく、オリーブ油、
細切りのベーコンをフライパンにいれる。
「…他のエクレシアの間で、『彼女』はどういう風にみられていたんだ?」
リゾットは、煮立ったお湯を入れた大鍋に乾燥パスタをいれた。
『彼女』…フィンが、まだリゾット達の住む世界にいた頃、ソラ以外のエクレシアとの接触を極力避けていた。
不可抗力で、二名とは面識を持ってしまったが…
実の所、他の者達からはどう思われていただろうか?
「私は会ってみたかったわ。多分、他の人達も同じよ」
「…彼女の『正体』を知った上でもか?」
フィンの『正体』―――それは、リゾットと一部の人間しか知らない。
最初にその謎を解いたのが、リゾットだった。
でも、フィンの本当の姿がどんなものであろうと、リゾットはありのままの彼女を受け入れた。
「もちろんよ。真相とか関係ない。それに大切なのは…その人自身の人となりでしょ」
「その言葉…彼女が此処にいたら、きっと喜んでいただろう」
隣で具材を炒めているエクレシアが、柔軟性のある人物でよかった。
思えば、故郷で出逢ったソラの保護者二人も話せば、分かるタイプだった。
他のエクレシアもそういう人柄だといいのだがな…と思っている隣人をよそに、
カナンは潰したホールトマトを入れ、塩とこしょうでソースの味付けをしていた。
トマトソースの香ばしい匂いが部屋に広がる。
リゾットが一足先に茹でたパスタを深皿に綺麗に乗せる。
カナンがその上から、トマトソースをかける…
それからバジルの葉を添えれば、トマトソースパスタの完成だ。
「はい、出来上がり」
「飲み物はどうする…水、それともワイン?」
「勿論、ワインがベストでしょ!」
リゾットが右手にミネラルウォーター、左手に年代物のワインの瓶をもってどちらにする、と軽く上げる。
カナンが人差し指をビシッと差して、迷わずワインをチョイスする。
パスタ以外にも、生ハムとレタスのサラダとドルチェにティラミスを用意した。
リゾットと向かい合うように席に座ると、カナンは両手を合わせて「いただきます」と食事の挨拶をする。
リゾットも同じく手を合わせ、その挨拶をすると、食事を始めた。
「うーん、おいしい!」
「このソース…懐かしい味付けだ」
「リゾットさんも、パスタの茹で加減が絶妙よ」
互いにソースと麺の感想を言い合っていると、リゾットの隣でチュルチュルと
トマトソースが絡まったパスタを一本ずつ啜っていたDIOが口を開く。
「…悪くないな」
「あら、ありがとう」
「だが、一つ解せん事があるぞ。
リゾット…何故、ワインがあるなら先に出さなかった」
先程、ルドガー達がいた時にDIOに出された飲み物はブドウジュースだった。
ワインがあるなら、そちらの方を飲みたかったと不服そうに文句を言う。
「その姿でワインを出してみろ…明らかに不自然だろう」
リゾットは呆れたように指摘した。
本当ならミネラルウォーターにする予定だったのを、この金色ピヨが「NO!」と
丸っこい身体をフリフリ横に振ったため、やむなくジュースにしたのだ。
案の定、ルドガーの仲間の一人が怪しげに、彼を凝視していた。
「フン、別によかろうが」
「お前が良くても、こっちは都合が悪い。
それに、ミーチョやカナンのようなエクレシアとその関係者ならまだしも…
何も知らないこの世界の住民に俺達の正体がバレてみろ。
面倒事が起きるのは目に見えてるだろうが…
この世界を守る者に目をつけられる危険性もある」
「うぬぬ…」
リゾットが尤もな正論を返すと、DIOは渋い顔で口を噤む。
「リゾットさんの言う通りね。
下手に目立つとこっちの導き神の監視を受ける事になるわよ」
「…だそうだ。頼むから、変な真似はするんじゃねえぞ」
「…WRYYY」
カナンからも注意を受け、さらにリゾットから釘を刺されたため、DIOは急に大人しくなってしまった。
「…ところで、カナン。聞きたい事がある」
「なに?」
「君は、もう契約者がいるようだが…
差支えなければ、何が【決め手】で契約を決めたのか教えてほしい」
カナンは、リーゼ・マクシアの現国王と契約を交わしている。
その事は、彼女の肩書からみても分かるし、時々テレビでその契約者と彼女が
映っている場面を見かけるからだ。
「そうね…あの人と最初に出逢ったのが『夢』だったの」
「『夢』…?」
「そう、夢の空間で特定の人物と接触する事が出来る『夢見』
―――その能力を先天的に、私の契約者は持っていたの」
カナンは懐かしむように、契約者との出会いを語っていく。
…ある事が原因で友達の関係が崩れ去った事。
…仲間に危害を加えるのを覚悟で、カナンを手元に置こうとした事。
…対立国との戦争、さらに世界の存亡を揺るがす破壊神との戦いの中で、互いの本音をぶつけ合った事。
聴いていたリゾットとDIOは、契約に至るまでのその過程や、カナン自身の葛藤、
人間関係があたかも壮絶な大河ドラマのように感じられた。
「…正直ね、あの人の思いを受け止める事が辛いと思う事が何度かあった。
でも…本音を曝け出してみたら、『あの人の傍にいたいんだ』って結論に達したの」
「…それが君の【決め手】だったのか」
「貴方の場合はどうだったの?」
「フィンは…彼女も似たような答えだった」
―――『リゾットさんといる時が…一番心が落ち着くんです』
契約者として認められた時、彼女が告げた言葉を思い出す。
その言霊は、リゾットにとって―――
「最大の賛辞で、最高の殺し文句だった」
「……あらあらお熱い事」
リゾットが『彼女』を語るその表情は、想い人を愛おしく思う男そのものだ。
見方を変えれば、惚気話にも聞こえる彼の思い出話に、カナンは微笑ましく耳を傾けた。
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