第2章:長期任務の幕開け
「…どういうつもりだ?」
リゾット・ネエロは気難しげに顔を顰め、腕を組んで『ある人物』に問いかけた。
ルドガー達が帰り、カナンも必要な物を購入するために一時、外出したその部屋にいるのは、
小さなこねこにん…ソラ。
しかし、彼が視線を向けているのは彼女ではない。
……彼女の被っているフードの上にいる金色の雛に対してだ。
「ほぉ、それは私が『何故、この世界にいるのか』という事か?
それとも『何の意図で己の仮住まいまできた』という意味か?」
先刻まで、鳥特有の声で鳴いていた雛がいきなり人語を喋り出した。
可愛らしさが一転、妖しい魅惑的な雰囲気を漂わせている。
リゾットは、この雛…もといピヨが誰なのか知っている。
「両方だ。順に答えろ」
「そう急かすな…ほら、ステラが眠たそうにしているじゃあないか」
ピヨがククッと喉を鳴らすよう笑って言う。
事実、ソラはふぁーと欠伸をして、うつらうつらとしている。
リゾットはハァ、とため息をつくと、半分眠りかかっているソラを抱き上げた。
「りぞしゃーん…」
「ミーチョ、シエスタ(お昼寝)の時間だ」
「うん…」
ソラは素直にコクリと頷くと、そのまま夢路へ誘われていく。
フッ…と口元を緩めると、奥の部屋にあるベッドに寝かせた。
ピヨはそれを見届けると、パタパタと小さな羽を動かして、彼女のフードからリゾットの肩へ移動した。
「小腹がすいた。何か作れ」
「話を逸らす気か」
『食事をしたい』と命令口調で言うピヨに、リゾットは『さっさと答えろ』と言い返す。
「せっかちな奴だ…まあよかろう。最初の質問に答えてやる。
私は、前々から『異世界』という存在に興味があった」
きっかけは、自分が生まれ育った世界のエクレシアが残した文献と、親友である『彼女』から聞いた御伽噺。
星の大海(リゾットとピヨの世界でいう『宇宙』)に位置する数多の星。
そこに住む人々とエクレシアが織りなした物語。
金色ピヨはその外見にそぐわぬほど博識であり、知的好奇心と探求心も人間の倍以上にある。
己の体験していない未知なる領域は、彼の中にあるそういう気持ちを擽るものなのだ。
「“あの男”が、異世界へ繋がる門(ゲート)を開通させたのは予想外だったが…
この機を逃す手はないと思った」
意気揚々と理由を語る金色ピヨ。
だが、傍聴者であるリゾットは厳しい眼差しを向ける。
「お前は…自らの立場を理解しているのか? 『DIO』」
リゾットは、このピヨ…もといDIOに複雑な感情を抱いている。
DIOは、元からこんなファンシーな姿だったわけじゃない。
真の姿は、魔性の魅力とカリスマ性を兼ね備えた美しい吸血鬼の男だ。
他者を利用し、役に立たない者や己の野望を邪魔する人物は容赦なく排除する冷酷さを持っていた。
彼は万人には想像しがたい思想から、世界を終焉へ向わせようとしたのだ
…ソラともう一人の人物のおかげで難を逃れたが。
「俺は…まだお前を完全に許した訳じゃあない。
人の事を言えた義理ではないが、お前のやろうとした事で、多くの者が傷つき、犠牲になった」
そう…DIOともう一人の協力者があんな事をしなければ、『彼女』は選択しなかった。
『彼女』の存在は消える事はなかった。
「…例え、お前が起こそうとした行動が『彼女』を生かす可能性を秘めていたとしても…
『彼女』はそれを望んでいなかった」
しかし、リゾットは知っている。
DIOもまた…『彼女』を守ろうとして世界を塗り替えようとしていたのだと。
「……フン、貴様の説教なんぞ興味ない」
DIOは冷めた口調でそう言うと、小さな羽でソファーまで移動していった。
近づいてきたリゾットに背を向けたまま、丸く蹲る。
「私は自らの行為を悔いていないし、貴様やあのジョースターの一族に謝罪するなんぞ到底ありえん。
これからも、私の理念は永久に変わらないだろう」
ただ…と前置きをしたうえで、DIOはこう続けた。
「例外として、このDIOが敬意を評し、頭を下げる相手は二人いる。
―――それは、ジョナサン・ジョースターと『彼女』…【フィン・スィエル・クレシミエント】だけだ」
ハッキリとした口調でそう言ってのけた。
リゾットは微かに目を見開く。
「フィンは、私が認めた『友』の一人であり、私の心に変化の種を撒いた存在だ。
無情にも消えてしまった彼女を…私は見つけ出したい」
「……見つけ出して、何をするつもりだ?」
回答次第で、この金色ピヨを再起不能してやろうか…とリゾットは思案していた。
「文句を言うに決まっている。
このDIOの目の前で、清々しい顔で去っていくとは…
あんなに屈辱な事は、ジョジョとの喧嘩以来だッ」
しかし、彼の口から飛び出た答えは至ってシンプルかつ人間臭いものだった。
青筋を立ててぷんすかしているそのピヨに、不覚にも可愛らしさを感じてしまう。
「……DIO、お前…」
「勘違いするな。リゾット…お前はフィンと契約しているゆえに、彼女の波長を感知する事ができる。
現段階で確実にフィンを見つけ出せるのはお前だけだ。
私はお前を利用するために、此処までやってきた
―――それが第二の質問の答えだ」
これで、全て答え終えたぞ。さぁ…今度はお前の番だとDIOはクルッと振り返り、
リゾットにそう告げた。
「分かった。だが、予め警告しておく…この世界で混乱を招く所業だけは絶対にするな。
あと…俺の邪魔をしないのであれば、好きにして構わない」
「随分と偉そうに物を言うな…」
「あの世界では、名の知れた帝王だったのだろうが…この部屋の中では俺が『主』だ。
俺の警告を無視するのであれば、容赦なく、お前をボスか空条承太郎の元へ強制送還させるだけだ
…それでもいいのか?」
とっておきの切り札…DIOの苦手な人物二名の名前をちらつかせると、彼は「WRYYY…」と苦虫を噛み潰したように唸る。
「……善処してやる」
「契約成立だな」
【過去語り】
「…お話のところいいかしら?」
話が一段落したと安心したつかの間、聞こえてきた第三者の声に、リゾットとDIOは
パッとその方向へ視線を移した。
先程、イバルが壊してしまい、一旦窓枠を取り外した場所に腰かけている一人の女性、カナン。
「インターフォン鳴らしても全然反応なかったから、失礼だと思ったけど…
こっちからおじゃましまーす」
「うりり…いつの間に…!」
「(ああ、この光景は…)」
荷物袋を持ち上げて、「軽食なら、私がつくってもいいけど?」とクスッと笑うカナン。
おそらく、今までのやり取りの一部始終を傍観していたのだろう。
気配には敏感なのに、全く彼女の存在に気づけなかった事に、
DIOは背中に汗が流れ落ちるほどの驚愕を隠しきれない。
対して、リゾットはかつて契約を交わしたエクレシアに同様の事をされた思い出が頭をよぎり、
フッと口元を緩めた。
【つづく】
・
