第2章:長期任務の幕開け
case:《俺達の知り合いの人だ。…開けてくれ。》
「…分かった」
リゾットが静かに呟くと扉を開けた。
「お邪魔するよ」
入ってきたのは…クランスピア社社長、ビズリーと秘書のヴェルだ。
リゾットは眉を潜めて、ルドガー達を横目で見る。
エレンピオス政財界のトップが、何故探偵社の新米社員に用事があるのか…?
疑問を感じずにはいられないのだ。
「ビズリーさん、どうしてこちらに?」
ジュードが、周囲の声を代弁する形で尋ねた。
「それはな…」
その時、後ろの窓がバーンと開かれた。
「驚いているヒマがあるか!」
窓からシュッと素早く乗り込んできたのは、サングラスをかけた銀髪の青年。
驚いているルドガーに向かって、蹴りを入れようとした。
「ぐおっ!」
「危ないな」
しかし、シンがそれを軽くいなして腕を掴んで床へ抑え込んだ。
「あっ、君は…!」
「あら、イバル君」
ジュードとカナンは、その青年に見覚えがあるのか、意外そうに彼の名前を呼んだ。
「…知り合いなのか?」
「うん。以前、旅していた時に知り合った子なんだ」
ルドガーがジュードとイバルを交互に見て尋ねると、ジュードは困惑したように答えた。
「ふっ…な、なかなかやるじゃないか」
「そりゃどーも…。こういう襲撃には慣れてるからな」
シンは真顔でそう言うと、抑えつけていたイバルを解放した。
「ハハハ! 面白いな、イバル君。
その愛嬌を買って、雑務エージェントとして雇おう」
「くっ…ありがとうございます」
可笑しそうに笑うビズリーに、イバルは複雑そうな表情で礼を言う。
「ミスター・バクー…これはどういう事なのかしら?
冗談にしてはユーモアが欠けていますわよ?」
突如、現れた上にイバルに襲撃させるなんて…失礼にも程がある。
カナンは、目を細めて遠回しに抗議の意を唱える。
「おや、カナン王妃。何故、こんな所に?」
「“こんな所”で悪かったな」
ビズリーの言葉が癇に障ったのか、リゾットはムッと不快そうに眉を潜める。
彼に対して「気に障ったのなら失礼」と横目で見つつ、ビズリーは悪びれる様子もなく謝罪を口にする。
「こちらの方は、私の仕事仲間の大切なクライアントです。
エレンピオスで新しい事業を立ち上がるための相談に乗っていましたの」
「そうでしたか…」
カナンの説明を聞き、ビズリーは納得した様に頷く。
「今度は、そっちが質問に答える番じゃないんですか? ビズリーさん」
シンが、こちらの質問を受け流すな…とジト目で指摘した。
「そうだったな。その前に…ルドガー君。それからそちらの君、ウィンクルム社に入社したそうだね。
まずは…就職おめでとう」
「…ありがとうございます」
「おじさん、エルもだよ!」
ビズリーから祝いの言葉を言われ、ルドガーは戸惑いを覚えるが…一応御礼を言う。
自分が中に入ってない、とエルは挙手して主張すると、ビズリーは「これは失礼」と軽く謝る。
「私が此処に来た用件は、ルドガー君。君に会うためだ」
「俺に…ですか?」
「ユリウスから、何か連絡はなかったかな?」
「いいえ…」
ルドガーは首を緩慢に左右に振ると、ビズリーはふむ、と顎鬚を指で擦る。
「…身内にも隙を見せないとは、用心深い奴だ」
「兄に何の御用ですか?
兄は…長期休暇をとったとドクター・クローチェから伺いました」
―――“クランスピア社に近づいたらダメだ。特にあの男に……ッ!”
電話でユリウスが必死に伝えようとした言葉が、頭をよぎる。
クランスピア社が、裏で何かを企んでいる事を既に知っているため、自ずと顔を強張らせてしまう。
ビズリーはどんな感情を向けられているのか、ルドガー達の表情で読み取ったのか、
隠し事は無用だと判断したようで、フッ…と口端をあげる。
「…単刀直入に言おう。ユリウスは、わが社の機密データを奪って行方をくらました」
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