第7章:真実が落とす影
「この事件の首謀者は、恐らく……アルクノアだ」
ミラは重々しい口調で、犯人の事を語りだす。
「アルクノアとは、私の命をずっと狙い続けている組織の事だ」
「命を狙っているって……それじゃあ、さっきの毒物は…」
「被害を受けた者達には申し訳ないが、狙われたのは十中八九、私だろう。……先程の事だけではない。先日の落石にしてもだ」
ミラの口から、改めて明るみになった組織…【アルクノア】
カナンが感じ取った殺気も…アルクノアの構成員のものであり、ミラもまたその事に気付いていたようだ。
アルクノアが現在、どれ程の規模を誇り、何人の構成員を擁しているのかは、ミラ自身も把握していない。
ただ、全員という訳ではないが、以前刃を交えた際に取り逃がした者の顔は記憶しているとの事だ。
「アルクノアという名前は初めて聞きましたが、もしミラさんの言う通りだとすると、やっている事が尋常ではありませんね」
ミラの説明を聞いた上で、アルクノアの異常性をローエンは硬い表情で指摘する。
落石の時と言い、今回の毒混入事件と言い、アルクノアの手口は残虐だ。
ミラだけではなく…無関係の人々さえも何の躊躇いもなく殺害しようとしたのだから。
「もとより何でもありの連中だったが、今回は特にひどい。…奴らは、よほど私を消し去りたいようだ」
「そんな…」
『えげつなさすぎるー!』
あまりにも衝撃的な事実に、エリーゼはティポを抱きしめて怯える。
「どうして…そのアルクノアに命を狙われているの? ミラ」
「私が、奴らの黒匣を破壊し続けてきたからだ」
【黒匣】…その単語が出てくるや、ジュードとレイアはハッとした。
「アルクノアは20年前、黒匣と共に突如出現した」
ミラは語りだした。
アルクノアとの因縁を…これまでの闘争の歴史を。
「奴らと明確な対決をしたのは14年前の事だ。当時の私が、微精霊の叫び声を聞いた事がきっかけだった」
微精霊は悲痛な声をあげると同時に、消滅してしまった。
当時、まだ幼児だったミラは四大と共にその原因を突き止めるためにある場所へ向かった。
そこが…アルクノアの拠点だった。
「ちょっと待って。ミラって、その頃…人間で言えば、6歳だよね? そんな時から戦えたの!?」
レイアが驚愕を露わにしてその疑問を口にすると、ミラは「その通りだ」と即答する。
「…とはいえ、当時の私は肉体が未成熟だったゆえに、四大の加護を受けていた事が勝因になったのは間違いないな」
そうしてミラは四大精霊と共に、アルクノアの本拠地を壊滅に追い込んだ。
自分が精霊の主として、リーゼ・マクシアの安定と秩序を守るために…ミラはその使命を全うしたのだ。
だが、それゆえに生き延びたアルクノアの残党から宿敵と認識されてしまい、今日まで命をかけた戦いを繰り返す事となってしまった。
「確か…クルクニクの槍も黒匣の兵器。…という事は、あの兵器が作られたのもアルクノアが関わっているって事?」
「確証を得た訳ではないが、恐らくそうだろう」
ジュードの推測に、ミラは大きく頷く。
「そうなると、ナハティガルはアルクノアの事をどこまで知った上で協力しているのかしら…」
カナンの脳裏に、あのリーゼ・マクシアの現国王の姿が浮かび上がる。
「さあな。少なくとも…利害は一致しているのだろう」
ア・ジュールへ侵攻するために兵器を行使しようという点では…とミラは苦い顔で断言する。
「しかし、そんな勢力に狙われているとなると厄介ですな」
「その悪い人達って、何か特徴はないの?」
ローエンは髭をさすりながら懸念を口にする。
続けて、レイアがアルクノアの構成員の見分け方がないか質問してきた。
「奴らは見た目では判断できない。…常に、街の人間の間に溶け込んでいるからな」
「ミラはこれまで、どうやって判断していたの?」
「私は…黒匣が使われた際の精霊の死を感じる事でしか対処できなかった」
ミラが目を伏せて答えた事に、ジュード達は衝撃を受ける。
「精霊の死…? 黒匣を使うと精霊を死なせるの?」
「人間は精霊の力を借りて暮らし、精霊は人間の霊力野が生み出すマナで生きる。それはこの場にいる皆も、知っているだろう」
ミラの語る自然の循環が、リーゼ・マクシアを成り立たせている理。
この世界に住む住民にとって、ごく当たり前の常識でもある。
「黒匣はその理に反するものだ。強力な精霊術を発生させられる装置だが、術を発生させるたびに精霊のマナを奪い、死に至らしてしまうのだ」
だからこそ、黒匣は破壊しなければならない。
あのクルスニクの槍が実際に使われる事になれば、それこそ世界に住む精霊が殺されてしまい、さらに人間達にも犠牲が出始める。
最終的に、世界すらも存亡の危機に晒してしまう事になるのだ。
「それが黒匣の正体なんだ…」
ミラが、黒匣を異様に危険視していたのはなぜか…
ジュードは改めて、その背景と深刻な事情を理解した。
「ふむ…私もまだまだですね。そのような大事を全く知らなかったとは」
ローエンが真剣な顔で述べた事に、ミラは「知らないのも当然だ」と返す。
「人間に知られないよう、これまでは私一人で処理してきたのだから」
「じゃあ、ミラはずっと世界の…僕達のために、一人で戦ってきたんだ」
「最後までそうするつもりだったが…私が不甲斐ないばかりに、お前達まで巻き込んでしまった」
申し訳ない、とミラはこの場にいる全員に深々と頭を下げた。
「謝らないでよ。僕たちの方こそ…」
「うん。ミラだけにそんな大変な事を任せきりにして、申し訳ないって思う」
「…ミラは、私たちのために…がんばっていたんですよね!」
『…だれにも知られずに、とってもつらそー…』
「真実を打ち明けてくださり、ありがとございます。…分かってしまった以上は私達も尽力いたしますよ」
返ってきた仲間からの言葉に、ミラは目を大きく見開く。
胸に熱いものが込み上げてくるのを感じ、自ずと手をあてていた。
「…ありがとう」
ミラは、その気持ちを感謝の言葉として紡いでいた。
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