第7章:真実が落とす影


「気になる選手でもいますか?」

「ええ…まあそんなところね」


決勝で戦うだろうチーム以外にも、前半戦でお世話になった参加者達もいる。

敗者となってしまい、落ち込んでいるチームもあれば、終わってスッキリしたのか和気藹々としているところもあったり…それぞれだ。

ローエンに尋ねられて、カナンは曖昧な返答をした。

確かに、優勝候補だろうチームの面々は実力が高いと思う。

けれど、この場にいない『あの人』の姿が脳裏をよぎると…言っては失礼だが、どの選手も実力的に見劣りしてしまう。


「ジュード君…もしも、相手チームの中にめっちゃ可愛い子が混じってたらどうする?」

「なっ…相手がどんな人でも全力を尽くすよ!」

「くくく、マジにするところが真面目だねぇ~」

「もぅ、アルヴィン…からかわないでよ」


すまんすまん…とにやけ顔のアルヴィンと半目で対応するジュード。

二人のやり取りをよそに、ミラは先程からジッと天井を見上げている。


「ミラ、上に何かついてるの?」

「いや…ちょっと考え事をしてたんだ」

「やっぱり、緊張しちゃうよね…でも、優勝してワイバーンを貸してもらわないといけないから、頑張ろう!」


鼓舞するレイアに、ミラも「うん、そうだな…」とほんのり笑って頷いた。

各々が話をしている中、従業員が注文した品を運んできた。


「おいしそう…です」


芳しい匂いを放つ出来立ての料理に、エリーゼは目を輝かせる。


「さぁ、食べて力をつけて後半戦を乗り切らないと!」

「うん、いただきます」


レイアとジュードが、卓上に置かれた料理を食べようとする。

同様に、カナンも匙で掬おうとしたその時、ある違和感に気付いた。

目の前に置かれた料理…麻婆カレーの匂いに紛れて、微かにだが何か別の匂いがしたのだ。


(これ、どこかで嗅いだ事が……)

「た、大変だ!」


その匂いの正体が何かを思い出そうとしていたら、ユルゲンスが食堂の扉を派手に開けて駆けこんできた。


「ユルゲンスさん…どうしたのですか?」

「昨日、広場で起こった落石だが、事故ではなく事件だったらしい。人為的に破壊された痕が見つかったんだ」


その知らせを受けるや、一同は驚きで目を見張る。


「あの落石が? 一体、誰が…」


ジュードは、明らかになった事実に困惑したのか、思わず呟いてしまう。

ユルゲンスの知らせが、周囲にいる選手の耳にも届いた事で動揺の波が広がっていく。

告げられた事実に、カナンがハッと視線を料理に戻した。


(もしかして…ッ!)

「食事に手をつけるな!」


カナンの懸念を証明するかのように、ミラの鋭い声が響き渡る。

突然、警告をしてきたミラに周囲がギョッと彼女を見つめる。

すると、次の瞬間…


「うっ…」


少し離れた場所に座っていた参加者の一人が椅子から転げ落ちた。

すると、連動するように次から次へと症状を訴える人が出始めた。


「な、なんで…」

「まさか、食中毒!?」


狼狽えるエリーゼとレイア。

他の参加者達も、苦しみだす人々の続出に持っていた匙を思わず落としたり、口に入れた物を吐きだそうとする。


「―――間に合ってッ!」


その現状に歯止めをかけたのは…カナンだった。

彼女は咄嗟に片膝をつくや、床を勢いよく掌で叩いた。

掌から放たれた光が床から伝導していき、倒れている人々の身体を覆っていく。

それにより、呻き苦しんでいた参加者の息が徐々に安定していった。


「ジュード君! 症状の出ている人を診断・処置して!」

「は、はい!」

「アルヴィンさん、ユルゲンスさん…あと体力に自信があるなら誰でもいいです! 倒れている人を医務室まで運んでください!」

「了解!」

「わ…わかった!」


カナンが声高らかに指示を出していく。

彼女のその行動により、混乱する現場はピシッと鞭を打たれたかの如く、ガラリと空気を変動させていった。




【襲いかかる悪意の牙】




会場内の通路は、様々な人が行き来しており、ところどころで各部族間のグループが集まって談話している光景が目立つ。

そんな中、イザヤは真っ直ぐ前を見て歩を進めていた。

一際目立つ容姿の彼は、人の目を否応にもひいてしまう。

前半戦の活躍ぶりもあってか、興味や嫉妬の色を宿した顔を浮かべる者が多い…特に、異性からは熱のこもった眼差しが注がれている。

しかし、イザヤはそれらをスルーして、外へ通じる出入り口を通った。

…そこは闘技場が一望できる場所。

大会を主催する側が、利用するスペースだ。


後半戦への調整で忙しいのか、イザヤ以外の人間はいないはず…だ。


「…いつまで隠れてるつもりだ?」


イザヤが目を細め、斜め後ろへ視線を向ける。


「用があるなら、姿を見せろ」


そう挑発するや、出入り口の扉の右横の壁からすぅ…と黒装束を纏う人物が出現した。


「…やはり、お前か―――『イタチ』」


イザヤはその名を口にする。

行方を探索中の最大の敵の側近であるその男…“うちはイタチ”に対し、警戒心を表に出して。





【つづく】

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