第7章:真実が落とす影


その日、闘技場は観客を熱狂の渦で湧かせていた。



『闘技大会前半戦第2ブロック…勝者はキタル族だぁあああ!』



実況者のアナウンスが響き渡ると同時に、円形の観客席から興奮と称賛の声が拡散していく。


「やったぁー!」

「うん、いい感じだね」

「気を抜くな! このまま次へ行くぞ」


闘技場の真ん中で、今まさにその主役となっているジュード達は、勝利の余韻に浸るのもそこそこに次の試合に挑む。

キタル族は元々、優勝候補と呼ばれるほど期待されていたらしく、代理である彼等も最初は人々の好意と敵意がまざった視線に表情が強張ってしまった。


《 過度の緊張は、本来の能力を低下されるという。皆、気楽にいくぞ 》


そんな中、ミラは涼しい顔でその台詞を言った。

彼女の何気ないその言葉が、チーム全体の緊張をある程度解き解したのだ。


《 手に入れるには骨が折れたぜ… 》


遡る事、早朝の時間帯、宿屋の食堂にて、アルヴィンがそう言いながら、集めてくれた対戦相手の情報を公開した。

一日半の間に、参考書並のレポートに仕上げられたのは、カナンが彼の情報をもとに作成を手伝ったからだ。

祭り好きな地元住民から聞いた内容は、特定の選手にやや贔屓な所が目立つものの、闘技場初心者なこちらにとって、とても有益なものだった。

それらを参考に、ローエンとイザヤが作戦を練っていく。

そして…現在進行形でそれは生かされている。



「鳳墜拳!」

『これでもくらえー!』

「フラッターズ・ディム!」


ジュードが一旦跳躍して、降下するや地面へ拳を叩き付けると、その衝撃で対戦相手が宙へ浮かぶ。

そこを狙って、エリーゼが闇色の蝶を出現させて、敵にダメージを与えていく。


「三散華!」

「アブソリュート・コア」


別の試合では、レイアとローエンが活躍した。

レイアが混術で対戦相手が使役する魔物を一気に駆逐していく。

彼女をフォローするように、ローエンが巨大な氷属性の精霊術で広範囲な攻撃を仕掛けて、魔物を含め、対戦者を圧倒した。


「ルナティックスティング!」


さらに、白熱したのはミラとイザヤがメンバーにいた試合だ。

こちらも目にした事がないレベルが高そうな魔物と、情報で入手していた優勝候補の戦士に、ミラは剣術と精霊術を巧みに使用して、相手を翻弄させた。


「―――『虚空』」


彼女が作ったチャンスを逃す事無く、イザヤは、高速で対戦相手を独特の剣技で薙ぎ払い、一気に戦闘不能にした。

その瞬間…司会者は勿論、その場にいた全ての観客は刹那の間、言葉を失った。

そして、彼が愛刀を鞘に納めたと同時に、はちきれんばかりの大喝采とうねる拍手があがった。


「うわぉ……アイツ、すげー奴だな」

「そうでしょう」


騒ぐ観客席の最前列で、仲間の戦いを見守るアルヴィンとカナン。

イザヤの戦闘能力を間近で見物した事で、アルヴィンは改めてその凄さを実感したようだ。


(腕あげたみたいね…)


カナンも、久しぶりに見る友の戦いぶりに目を見張る。

手合わせをしたのは、二年前あたりか…?

昔よりも、剣術のスキルが上達している。


「私も負けていられないわ…」

「なに闘争心、燃やしてんだよ」


興奮するカナンに、アルヴィンが軽くツッコむ。

それからジュード達は順調に勝利を収めていき…



『いやったああーっ! キタルブロック、全試合終了! キタル族が完璧な戦いぶりで後半戦へと進出ぅううう!』



…ついに、決勝戦へと勝ち進める事ができた。


「…よし、勝った!」

「優勝へだんだん近づいてきたね!」

「信じられません…」

『おっしゃー!』


ジュード、レイア、エリーゼ、ティポは前半戦を制した事に驚愕し、興奮交じりで感動している。

四人は観客席から滝のように浴びせられる歓声に、自ずと手を振って答えていく。

ミラ達に呼ばれて、四人が出入り口へ戻っていくのを見ると、アルヴィンは立ち上がった。


「そんじゃ、俺達も労いにいこうぜ」

「そうね」


カナンも疲労している皆を出迎えようと、腰を上げたその時だった。


「……」

「どうした?」

「いえ、なんでもないわ」


小首を傾げるアルヴィンに、カナンは笑って取り繕う。

休憩がてら腹ごしらえするかーとアルヴィンが背を向けると同時に、カナンは未だ熱気に包まれている観客席にこっそり視線を移す。

住民や出場選手の関係者、観光客などの大多数の気配が表立つ中、不自然に見え隠れする【ある気配】を感知した。


(…あっちは気付いているかしら)


カナンは、その気配の主が誰なのか特定していた。

以前は、目にするだけで感情が制御できなくなるほど胸が苦しくなったのに…。

今は、胸の高鳴りはするけれども、比較的落ち着いて相手の事を考えられる。


「…私は此処よ。いつでも待ってる」


カナンは小声でそう呟くと、アルヴィンを追うようにその場から離れた。

…その表情に曇りはなかった。




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