第7章:真実が落とす影


「おや、お帰りなさいませ」


宿屋の扉を潜るや、右側の通路から歩いて来たローエンに声をかけられた。

普段着ている服装ではなく、浴衣を身に着けているローエン。

微かに上気している頬。

顔を真っ白なタオルで拭いているその様子から、一風呂浴びてきた直後だと一目で分かった。


「いやぁ、マッサージの後のお風呂は格別です。カナンさんもお勧めしますよ」

「うーん、ご飯食べてからそうしようかな…」


身体をスッキリさせて、気分転換するのもいいかもしれない。

そう思いながら、ローエンと話していると…階段からイザヤが降りてきた。


「カナン、戻ってきたのか」

「ええ、そういう貴方は…出かけるの?」

「…30分ぐらいで戻る」


簡潔に告げると、イザヤは外へ出ていった。

入れ違いで、ジュードとエリーゼ、ティポが帰ってきた。


「ただいま」

「おかえりなさい、どうだった?」

「美味しいお菓子…買ってきました」

『みんなの分もあるから、後で食べよー♪』


エリーゼとティポがルンルン気分でお土産を買った事を告げる。


「エリーゼ、ティポは先に部屋に戻ってて」

「どうして…です?」『なんでー?』

「今日はたくさん歩いたから、足が疲れちゃって…温泉で疲れを取りたいんだ」


ジュードが苦笑いして頼むと、エリーゼは素直にコクリと頷き、ティポを抱きしめて二階へ上がっていった。


「…カナンさん、ローエン。ちょっといいかな?」

「話したい事があるんでしょう?」

「エリーゼさんとティポさんの前で口にするのは難しい話題ですね」


ジュードの言いたい事を察知していた二人。

ジュードは首を縦に振ると、今日…別行動を始めた後の事を語りだした。



*** ***** ***



ミラ達と別れた後、僕はエリーゼとティポと一緒に露店を回ってたんだ。

途中でお腹がすいたから、出来立ての揚げ芋を買って食べていた時…



‟ みずにかえりて いのちをはぐくめ

たましいは みな このそらの なみま

ながれ また もどりくる

いとしき おさなごの ほほに

わだちをゆく わたしの もとに ”



壮年の行商人がその歌を口ずさみながら、歩いてた。

その歌を聴いた瞬間、エリーゼが急に立ち上がって、その男の人に詰め寄ったんだ。


『待ってください!』

『…って、誰だい。お嬢ちゃん』

『あの、すみません。エリーゼ、どうしたの?』

『ごめんなさい…あの…おじさんが歌ってたの、どんな歌なんですか?』


いきなり大きな声をかけた恥ずかしさと気まずさがあったのか、しどろもどろでエリーゼは質問した。


『歌…? ああ、二十年前のファイザバード会戦の悲劇をもとにした歌だよ。あの頃、ラ・シュガルで流行ってたんだ』

『ラ・シュガル…ですか』

『当時から付き合いのある人の店でよく歌われててねぇ。お嬢ちゃん、この歌知ってるのかい?』


男の人が不思議そうに聞き返して…エリーゼは困惑した様子で「はい」って答えてた。

その人がいなくなった後、僕…尋ねたんだ。


『あの歌…本当に聞いた事があるの?』

『……あ、あの…』


その時のエリーゼが、涙をポロポロ零しながら教えてくれた。


『ずっと…ずっと前に、私歌ってた思い出、あります。誰かといっしょの時…』

『…分かった。教えてくれてありがとう』


ハンカチで、エリーゼの涙を拭きながら思った

その一緒にいた人物は、エリーゼの両親じゃないかって。



*** ***** ***



「それ以上、内容を深く掘り下げる事はできなかったけど…間違いないと思う」

「なるほど、その歌で幼い頃の記憶が蘇ったのでしょうね」

「ねぇ、ジュード君。その行商人の男性は、他にも何か言ってなかった?」

「…うん。特には」


もしかしたら…今回の歌のように、エリーゼは記憶に関わるモノに触れたら、何か思いだす可能性はありそうだ。

カナンは、顎に手を添えて少し思案する。


「ジュード君。その歌、覚えてる?」

「…一応、その人から教えてもらいました」


これです…とジュードは歌詞をつづったメモ書きを渡してくれた。


「預かってもいい?」

「どうぞ」


今後、エリーゼのために役に立つかもしれない。

ジュードからもらったメモに記された歌詞を一通り目を通してから、カナンは服のポケットに忍ばせた。




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