第7章:真実が落とす影
「そういえば、私も名前を言ってなかったわね…カーラ・アウトウェイです」
「じゃあ、改めて…カナン・ルースディ・レンブラントと言います」
「ミラだ」
「レイアです。レイア・ロランド」
女性が名乗ると、続ける形で三人も自己紹介をしていく。
「カーラさんはこの町に住んでるんですか?」
「いいえ…色々と理由があって宿暮らしをしている身なの」
レイアの質問に、カーラは言葉を濁して答える。
「職業上、定期的に町を廻らなきゃいけないのも理由の一つかしら」
「差支えなければ、どんなご職業ですか?」
「歴史学者よ。普段は教師をしているの」
彼女曰く、ア・ジュールの町にいる子ども達に勉強を教える傍ら、ア・ジュールの歴史を調べているとの事。
十数年前までは紛争が多発していたため、ア・ジュールは教育分野でラ・シュガルに遅れを取っている。
そんな背景から、彼女のように子ども達に勉強を教える取り組みをする人も最近増えているようだ。
「ほぅ、立派な仕事だ」
「同感ね。教育を受けるのと受けないのとじゃ、将来の選択肢の幅が違ってくるもの」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。…昔はこういう仕事に携われるとは思わなかったから」
「…どうして?」
カーラの言葉に引っかかりを覚えたレイアが思わず聞き返す。
「現在の国家元首…ガイアス陛下が即位する前のア・ジュールの時代は、あなた達はご存じかしら?」
「えっと~…」
「『前王とロンダウ族やキタル族などのいくつかの大部族を中心に各部族を統治していた』…と歴史書で読んだ事がある」
突然、振られた質問にレイアが指先で頬を掻きながら悩む傍ら、ミラがそれに答えた。
「私も数年前、カン・バルクにいた頃に現地の人から当時の話を聞かせてもらったけど…あまりいい体制ではなかったみたいね」
ル・ロンドでのあの怨霊事件の際に、アグリアの過去に触れた時にその情報を視たが…前の王はかなり評判が悪かったようだ。
あのガイアスやジャオすらも不快にさせる程の人物なのだから、一部を除いた民衆からは倦厭されていたのだと想像できる。
「封建的なしきたりが根強かった時代で、女性は家庭にいるのが当然というのが常識だった。外で仕事をするなんて以ての外だと言われてたのよ」
「それを変えたのが…今のア・ジュール王なんだね」
「そうね、そのためにたくさんの犠牲がでたけれど…」
悲しそうに目を伏せたカーラ。
カナンとミラ、レイアは沈黙してしまう。
「…ごめんなさいね。今の王を否定するつもりはないの。ちょっと…感傷にふけってしまって」
「いえ…気になさらないでください」
ガイアスは腐敗した前政権を倒し、今の国を築き上げた。
しかし、平穏の時代を築き上げるまでに彼は多くのモノを失ってしまった。
…年相応に過ごすべき思春期を。
…大切な一族を。
…共に戦った同志や部下を。
そして、彼だけでなく…その時代を生きてきたア・ジュールの住民の中にも過去の傷跡は残っている。
カーラの発した言葉に、カナンは胸がキュッと締め付けられた。
ゴーン…ゴーン
その時、時間を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
「ああ、そうだった…用事があるんだったわ」
「そうですか…貴重なお時間ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。……ねぇ、カナンさん」
「はい…?」
「また会えたらいいわね」
カーラは薄く微笑んでそう言うと反対方向へ去っていった。
「…なんか、ふかーい話だったね」
「ああ、前のア・ジュールがどんなものだったのか…貴重な意見だった。本でその知識を見るのと、当時を知る住民から聞くのとでは、やはり違うな」
レイアとミラが話している一方、カナンははて…と小首を傾げる。
(また会えたら…って、社交辞令で言ったのよね…?)
頭でそう思いながらも、そうではない気がした。
この先、彼女とはまた顔を合わせる機会がある…超直感がそれを告げている。
いい意味での再会か、もしくは悪い意味でか…
(…あー、ダメダメ。いちいち悩んでたら、きりがないわ)
微妙に気になる懸念事項は、今は後回しだ。
「カナンさん、大丈夫?」
首を緩慢に振るカナンが気になったのか、レイアが心配そうに尋ねてきた。
「…ごめんなさい、ちょっと歩き疲れただけ」
「ふむ、宿屋に戻ろうか」
「ミラとレイアちゃんはゆっくり観光してて。私、一人で帰れるから」
気遣う二人に、やんわりと断りを入れるとカナンは一足早く帰路についた。
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