第7章:真実が落とす影


例の落石現場へ足を踏み入れた三人。


「大分スッキリしてるね…」

「住民の人達が片づけてくれたのよ、きっと」


話し込んでいるレイアとカナンから離れ、ミラは周囲を見回していた。

広場を行きかう人々一人一人に目をやり、仔細に観察している。


(そういえば…昨日、あの付近で誰かが潜んでいた)


彼女のその様子に、カナンは昨日の事故発生前の事を思い出した。

万人では聞き取れないレベルの爆発音と、特定の人物に向けられた殺気。

これらから推測できる事は…


(…間違いない。あの落石はミラを殺すために誰かが仕組んだもの)


事故ではなくて‟事件”だった。

その事をミラも感づいて、敢えて現場に戻ってきたのだろう。

彼女が一人ずつ人々を注視しているのも、怪しい人物…犯人を特定するため。

犯人は犯行現場に戻って来る可能性もある。


「あら、また会ったわね」


不意に近くで声が聞こえた。

その方へ視線を向けると、昨日知り合った医師のイスラがいた。


「あ、イスラさん!」

「あれからあの子、調子は大丈夫だった?」

「はい…イスラさんのおかげです!」


ジュードの怪我を治療した御礼を改めて言うレイアに、イスラは「いいのよ」と和やかに返答する。


「ところで、貴女達…こんなところで何してるの?」

「この落石の原因をかいめ…」

「事故現場がどうなったのかな…とちょっとした興味がわきまして」


正直に話そうとするミラを遮る形で、カナンが表向きの理由を話した。

モノ好きなのね…とイスラが微妙な顔になる。

まあ、彼女の反応は当然だろう…巻き込まれた事件現場に行く人間なんて、そうはいない。


「イスラ~…おや、貴女達は…」


すると、今度はユルゲンスがやってきた。


「ユルゲンス、この人達と知り合いなの?」

「ああ、明日の大会に協力してもらえる事になったんだ。貴女達はイスラとも知り合いなんだな」

「昨日、事故で負傷した仲間を助けて下さいました」


カナンがそう言うと、ユルゲンスはそうか…大変だったんだねと同情するように頷く。


「そういうお前も、イスラと顔見知りの様だな」

「顔見知りも何も、イスラは私の婚約者だよ」


ミラの言葉に、ユルゲンスはわずかにはにがんだ顔になって告げる。


「コンヤク…?」

「わぁ、素敵ですね!」

「おめでとうございます」


聞きなれない単語にミラは小首を傾げ、レイアは両手を胸の前に合わせて弾んだ声であげ、カナンはほんのり笑ってお祝いの言葉を言う。


「はは、ありがとう」

「それにしても世間は狭いって言うけれど、貴女達が代表選手になるとはね…」

「はい、こっちもワイバーンがかかっているんです!」


レイアが熱く理由を語る。


「カナン、コンヤクとは祝福するべき事柄なのか?」

「二人は近い内に結婚するのよ、ミラ」


カナンが婚約の意味を伝えると、ミラはおお、そうか!と合点がいったように手をポンとたたく。


「カナンですって…!?」


その時、イスラがぎょっと驚いた顔でカナンを見た。


「驚くよな。次期王妃様と名前が同じなんだよ、彼女は」


ユルゲンスが苦笑して言うと、イスラが「そ…そう」とチラチラとこちらを見る。

カナンはあれ…と小首を傾げる。


「…あの、私の顔に何かついていますか?」

「…!? いいえ、ごめんなさい。つい有名人と同じ名前だから珍しくて」


イスラが誤魔化すように両手を振って笑う。

そうですか、とカナンも笑って答えるが…


(…注意しておいた方がいいわね、この人)


直感がざわざわと囁く。

この女性…イスラは、自分が次期王妃だと感付いている可能性が高い。

でも、それだけか?

いつも以上に胸のざわつきが収まらない。


(杞憂に終わればいいのに…でも、きっと起きてしまうのね…“新たな事件”が)




【警戒対象】




崖の上から、狐の面を被った黒装束の男が彼等のやり取りを眺めていた。


「…カナンさんとマクスウェル、もう到着しているとはな…」


男…うちはイタチは狐の面を外し、特徴的な文様の紅色の瞳が露わにする。

シャン・ドゥ内にいる標的はどこにいるのか、どういう人物なのかは調べ上げていたが、主と敵対する組織が護衛に回っていた。

あまりにも手回しが早い…こちらの動きを先読みした様に。


「奥方様の能力…厄介なモノだ」


主と同様の先読み能力…あちらは、こちらの動向をどこまで把握しているのだろう?

その点を警戒するに越した事はないが…


(今は、結晶華の入手が優先だ)


問題は、主が狙っている結晶華を対象からどう奪い取るか?

13機関の三名と手下のダスク複数のガードが固い事が難点だ。

ふと、視線をカナン達へ戻すと…“ある人物”に目が止まる。


(…気が進まないが、あの人物を使うか)


作戦は整った。

イタチは気配を感知される前に、崖から早々に姿を消した。





【つづく】

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