第7章:真実が落とす影
「…それから、私達の交流は続いた。夫と結婚してアルフレドが生まれた後も、定期的に私達は会っていたの」
そんな時、リエは私を呼び出した。
彼女はすっかり人型に戻って、私の故郷の生活に慣れて仕事もしていた。
アルフレドが生まれてから久しぶりの再会だった。
『レティシャさん…いえレティ、お願いがあります』
『どうしたの?』
いつになくリエは真剣な顔だった。
これは何か特別な用事に違いないって感じた。
『暫くの間、私はこの街を去ります』
『…どこかの都市へ移り住むの?』
『機が熟したんです。〝あちら”へ行く準備が整いました』
〝あちら”とは…リエが以前、同じ種族の人と足を踏み入れた国の事。
彼女は、失われた力を取り戻すために長いリハビリ生活をしてて、ようやくその目途が立ったのだ。
『長い間、私の一番の理解者になってくれてありがとう』
彼女は私にそうお礼を言うと、ある物を私に託した。
『これは、私の力の一部で…結晶華。貴女に持っていてもらいたいの』
『でも…これって貴女の大切なモノじゃない!』
結晶華は、エクレシアの力を蓄えた宝石であると同時にそのエクレシアの『命』でもある。
つまり、リエは、自らの命を私に預けるという重要な役割を任せたのだ。
『私が人型に戻っている間、他のバラバラになった結晶華の欠片が仮に壊れたとしても、私の命が奪われる事はないから大丈夫。
でも、結晶華の中に込められた力は強くて、悪しき人の手に渡ってしまったら大変な事になります。レティ…だから貴女にこれを預けたいの。
貴女は、私の…この世界で最も信頼できる友達ですから』
…私の答えは決まっていた。
私は貴女に命を助けられた…いつか、ほんの少しの事でもいい、貴女の役に立てたらと考えていた。
その時がきたんだ、と感じた。
『分かったわ…貴女の結晶華を、預からせていただきます』
『宜しくお願いしますね、レティ』
私達二人はこうして約束をした。
リエが〝あちら”での問題を解決したら、私は再び結晶華を彼女へ返す事を…。
リエも問題が一段落したら、この街へ戻ってくる事を…。
決して、この約束が違えないように、互いに誓約したのだ。
*** ****** ***
「それから、波乱万丈な人生だった。旅行中に船の事故にあって、夫を亡くして、息子が傭兵になって、此処での生活が始まって…
回るような忙しさの中で、私はずっと気にかかっていたの…リエの事をね」
勿論、アルフレド…貴方の事もよ、と続けるレティシャ。
彼女にとって、親友も息子もどちらも大切な存在なのだ。
アルヴィンはそういわれると、照れ臭いのか視線を別方向へ逸らした。
耳元が赤いのは気の所為ではないようだ。
「そしたら一週間前に、ゼクシオンさんがこの町にやってきて色々と話してくれたのよ。リエの事、カナンさん…貴女の事もね」
「そうだったんですか…」
既に、こちらの諸事情も彼女は周知済みのようだ。
その事を説明してくれたゼクシオン達に、カナンも内心感謝した。
下手に事実を隠して、敵の危険に晒すよりも安全性は増すし、こちらとしても有難い事だ。
「ア・ジュールとラ・シュガルの戦争が現実味を帯びている今、もしかしたらリエの…エクレシアの力を狙う輩が出てくるかもしれない。
私と、私がもっているこの結晶華を奪われないためにも、ゼクシオンさん達が護衛についてくれる事になったの。とても頼もしいわ」
「……あのさ、母さん。一つ訊いていいか?」
今まで話の一部始終にほとんど聴く側だったアルヴィンが不安そうな表情で質問を口にした。
「その胸のブローチ、いや結晶華の事、此処にいる俺達以外の…他の奴らにはバラしていないんだよな? それなら、なんで母さんは『狙われる』って思ったんだ?」
確かに…とカナンも同じ疑問を抱いていた。
レティシャの話だと、亡くなったアルヴィンの父親以外には自らとリエの関係を明かしていないようだ。
それならば、何故彼女は自分自身と結晶華が他の勢力に目をつけられていると危険を感じたのか?
「生前、亡くなった夫…貴方のお父さんが言ってたのよ。弟の…叔父さんがもしかしたら、私がお父さんに事情を話しているところを聴いていたかもしれないって」
「なん…だって…ッ」
母親の言葉を聞いた瞬間、アルヴィンは目を見開いた…彼の表情が硬くなっていく。
「あの人は野心的なところはあるけれど、身内にまで危害を加えるとは思えないわ。でも、うっかり第三者にその事を喋っている可能性もあるから…」
「リエさんもその事を想定した上で、僕達を貴女の護衛につくようにお願いしてきました。仕事や買い物での外出の際は、配下の者も隠密に警護しますので、ご安心ください」
レティシャの不安を取り除こうと、ゼクシオンは「万全の警備をします」と優しい口調で断言した。
すみませんね…と苦笑しながら御礼を言うレティシャ。
和やな空気が戻りつつある中、カナンは、さっきから黙っているアルヴィンの様子が気になった。
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