第7章:真実が落とす影
外は雨が降っていた。
三日続けて、土砂降りの雨。
まるで、私の気持ちを代弁しているように…。
『この子は大人になれないと…覚悟してください』
担当の先生が沈痛な顔で、両親に向かって言った言葉。
大好きな母が両手で顔を覆う程、泣き崩れてしまう。
普段は泣かない父までも、椅子から落ちてしまいそうになる母を支えながら、涙を押し殺していた。
両親は、私の前ではいつも通りの態度でふるまっていた。
まだ幼い私が真実を知る事でショックを受けない様にするために…。
でも、私はとっくに気づいていた。
自分の命にリミットが迫っている事なんて…もうとっくに分かっていた。
私が入院してきたすぐの頃に、同じ病気の子がいた。
その子が、一ヶ月後に天に召されたのをその子のお母さんから聞いていた。
最初は実感がなかった。
けれど、日が経つ毎に咳が止まらなかったり、身体が思うように動かなくなっていって…だんだん怖くなった。
なぜ、こんなに苦しい目に合わなきゃいけないの…?
どうして、私は元気になれないの?
なんで…なんで、私は生きられないの?
向き合いたくない事実が、常に私の心を傷つけていった。
徐々に、私は食事をあまりとらなくなり、誰とも喋らなくなり、病室に閉じこもるようになった。
見兼ねた看護師の人が、花壇がある庭へしょっちゅう連れて行ってくれた。
私が住んでいた街は、自然が少なくて綺麗な色のある花は珍しかった。
最初は空虚な思いが占めていて、何の感情も湧かなかった。
…けれど、どんなに空気が悪くても、周りが無機物な建物ばかりでも、土に根を張ってしっかりと空に向かって佇んでいるその姿を見ていて凄いと思うようになった。
多分、この花は私より先に枯れていく運命なのだろう。
それでも、ピンッと背筋を立てるように咲いている花はとても美しく、生き生きとしている。
自然と、私の心に潤いを与えていった。
治療の合間に、植物を観葉するのが趣味になった。
主治医にお願いして、一日に二回、水を与える係りを任せてもらえるようになった。
薬を飲んで、植物の世話をして眺める…それが私の日課となった。
一日でも生きてもらいたい、という希望から両親や周りの人達は、私のその行動を陰ながら見守るスタンスをとってくれた事に、内心感謝した。
けれども、私の不安と悲しみは完全に消えたわけじゃない。
この植物は、いずれ種から芽が出て新しい世代になるのだろう。
私は…そういう生きた証を残す事はできない。
そう考えると、胸に重い石が流れ込んできて憂鬱な気分になる。
「ううッ……ひくっ…」
そう…あの日も、声を押し殺して建物の陰で啜り泣いていた。
『…どうして…泣いているの?』
その時、私の耳元に誰かの声が聞こえてきた。
看護師の人に見られたのかと、顔を上げる。
でも、周りは忙しく動いていて、私の事に気付いた人は誰一人いなさそうだ。
『…こっち…こっち…』
また、あの声がした。
その方向に目を向けると、花壇の中にキラリと光る何かがあった。
そこへ近づいていったら『花』があった。
薄い青い光沢を放つ、硝子細工のようで…宝石のような綺麗な『花』
『こんにちは』
あまりにも美しくて、はぁ…と息を漏らして見惚れていたら声をかけられた。
「だ、だれ…?」
もう一度辺りをキョロキョロ見回していると、フフフッと笑う声がする。
『貴女の、目の前にいますよ』
「…ひゃっ!」
次にかけられた言葉に、私は視線を花へと戻したら…そこに薄らとした一人の女性が立っていた。
「…ゆ、ゆうれい…!?」
身体が透けていて、いつの間にかそこにいたからてっきり幽霊かと思い、驚いて尻餅をついてしまった。
『あらあら、ごめんなさい。驚かせてしまいましたね』
その女性はニコッと微笑んで、私に手を差し出してきた。
その笑顔は、まるで明るい陽だまりの様に温かった。
『―――私はリエです。よろしくね』
これが、私とリエ・クローチェとの出会いだった。
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