第7章:真実が落とす影
カナン達は宿屋に着いて、宿の食堂で遅めの昼食をとった後、客室のひとつで話し合いをしていた。
「大会における人選だが…誰を外すべきか、皆の意見を聞きたい」
ミラの言葉に、その場にいる全員は思案する。
はい、と一番に挙手をしたのはジュードだった。
「僕は、カナンさんが参加しない方がいいと思う」
「その理由は?」
理由を問われると、ジュードはちらりとカナンを一瞥して申し訳なさそうに口を開く。
「さっき、ユルゲンスさんが言ってたでしょ…カナンさんは顔は知られていないけど、名前が有名になってる。今回はなんとか誤魔化せられたけど…」
「優等生の言う通りだな。次に誰かに勘ぐられたらバレる可能性はありうる。俺も雇われてる身として、雇い主の身の安全を優先したい」
ジュードの意見に、アルヴィンも賛同した。
そうか…とミラは軽く頷くと、レイア、カナン、エリーゼ、ティポに視線を移して意見を求める。
「私は…エリーゼを出場させるのはどうかな…って思う。精霊術がすごいのは分かるけど、戦闘中に標的にならないかどうかが心配だよ」
「そうね。エリーとティポ君は真っ先に狙われやすそうだから…敢えて出場を控えさせた方がいいかも」
レイアとカナンは、術者であるエリーゼとティポの身の安全を考慮すべきだと主張する。
すると、エリーゼとティポがそれに反論した。
「あ、あの…私とティポ、参加したいです!」
『心配してくれるのはうれしーよ。でも、僕とエリーは旅でケイケンつんだから、どーんとこいだぁああ!』
「エリー…ティポ君」
「うーん。そこまで言われると…二人の意見も尊重してあげたくなっちゃう」
エリーゼとティポの熱心なお願いに、カナンとレイアは心が揺れてしまう。
「ローエンはどうだ?」
「僭越ですが、私はアルヴィンさんを待機させておく事をお勧めします」
「へっ、俺?」
思わぬ形で指定された事で、アルヴィンは目が点になる。
「アルヴィンさんは戦闘技術は高いですし、トーナメントにでれば大いに活躍できます。ですが…アルヴィンさんには今回、別の仕事をして頂きたいのです」
「別のって…俺に何やらせる気だよ、じーさん」
ヘンな事やらせるんじゃねえだろーな…とアルヴィンが胡散臭そうに見つめる。
ほほほ、とローエンは茶目っ気たっぷりに笑う。
「いえいえ、そんなに難しい事ではございませんよ。アルヴィンさんには、情報収集を担当してもらいたいのです」
「なんでまた?」
「アルヴィンさんはこの町に馴染みがあるのでしょう。…でしたら、地元の方とも面識がありますよね?」
「まあな~…それなりに」
「大会に出場する部族であれば、私達の様な事例を除けば、必然と戦い慣れている名の知れた人を出す傾向が多い。
腕の立つ人物は、大規模な大会以外にも顔を出しているはずです。この町に住む住民なら、そういった有名人にも詳しい」
「…地元の人と顔なじみのアルヴィンさんなら、情報が入手しやすいって事ね」
ローエンの意図が察した、カナンは「成程ね~」と感心して頷く。
「なかなかいい案だな。だが…アルヴィンが欠場となるのは問題だ」
ミラは腕を組んで、気難しそうに眉を潜める。
「そうだね。ユルゲンスさんが言ってたけど、闘技場では魔物も出場するみたいだし…」
ジュードも同様に、その問題点に頭を悩ませる。
ローエンの意見はいい案だと思うが、アルヴィンがいなくなるのは痛手だ。
エリーゼやローエンの様な術者を敵から守るためにも、接近戦に得意な人は一人でもいてもらいたい。
「俺が出よう」
その時だった。
宿屋に来てからずっと無言を貫いていたイザヤが言葉を発したのは…。
「君が…か?」
ミラが意外そうな顔で、彼を見つめる。
「アルヴィン殿のような接近戦タイプが必要ならば、俺もそのタイプだ。戦闘経験がある方がいいだろ」
「そうですけど…でも、いいんですか?」
イザヤの実力は、先程の崩落した岩を解体させたのを目にしたので、カナンに引けを取らないレベルなのは十分分かる。
けれども、出逢ってまだ間がなく、明日練習するとはいえ、明後日の本番までにメンバーと上手く連携が取れるのだろうか…?
ジュードはその点を気にしている。
「ジュード…お前の言いたい事は分かる。明日のトレーニングで、全員の戦闘スタイルを見せてくれ。その上で俺も合わせていく」
「で、できるんですか…?」
レイアが半信半疑という感じだ。
「やるしかないだろ。優勝が絶対条件なんだ…至らないところがあれば遠慮なく言ってくれ。その代わり、俺も言いたい事は言う」
「…分かった。よろしく頼む」
「ミラ…それじゃあ」
ミラが了承した事に、ジュードは微かに目を見開く。
「優勝しなければならない以上、対戦相手の情報を探り、戦術を練るのは必須だ。私はローエンの意見を支持したいと思う」
意見のある者は言ってくれ、とミラが周囲にいる仲間にそう告げる。
カナンを含める全員は、特に異論はないようだ。
「よし。アルヴィン、すまないが…大会に出場するチームの情報を集めてくれ。なるべく多くのものを、明日までにできるか?」
「ったく、人使い荒いなぁ…ミラ様は」
なんとなくこうなるとは思ってたけどよ…と仕方なさそうに、アルヴィンはやれやれを肩を竦める。
「私も手伝うわ」
「…サンキュー、マジ助かる」
アルヴィンの苦労を慰めるように、カナンは彼の肩を軽くたたく。
ささやかな気遣いに、アルヴィンは目頭を押さえる仕草をする。
実際、目が潤んでいたのは本人だけの秘密だ。
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