第7章:真実が落とす影


部族が管理しているワイバーンを貸してほしいと頼まれ、若者を含めた数人の男女は顔を見合わせて困惑する。


「いきなり言われてもな…」


「キタル族の方、私達はイル・ファンへ行きたいのですが、両国が緊張状態のため、陸路と海路が塞がってしまい、交通手段がありません。

ワイバーンが王直属の管理下に置かれているのは承知の上です…どうか力を貸してください」


カナンは頭を深く下げて、ワイバーンを貸してほしいと申し出る。

彼女にならうように、エリーゼとティポ、レイアも「お願いします!」と懇願する。


「貴方達の気持ちは解らないでもないけど…私達は今、それどころではないんだ」


一緒にいた女性がすまなさそうに言う。


「そうだ、ユルゲンス。早く代表を探さないと…我等の部族は不参加になってしまうぞ」


さらに、別の男性も余裕がない感じで、紫色の衣装の若者…ユルゲンスを急かす。


「…随分と忙しそうだが、トラブルでもあったのか?」


彼等の慌てている姿に、イザヤが訝しそうに問いかけると…紫色の衣装の若者が深刻そうな顔で口を開いた。


「実は…今年は10年ぶりに闘技大会が行われるんだ。あなた方はご存知か?」

「ああ、ア・ジュール各地の部族の参加者や代表者が集まるんだよな」


町に詳しいアルヴィンがそう答えると、「その通りだ」と若者も頷く。


「我々、キタル族も参加権があるのだが…唯一の武闘派の現族長は王の側近である為、参加できない。そのため、代行してくれる者を探している」

「部族の代表者を縁のない方にしても差支えないのですか?」

「過去にも、戦えない部族は旅の傭兵等を代表にしていたんだ。我々もその慣例に従って行動している」


ローエンが不思議そうに尋ねると、ユルゲンス曰く「部族とは無関係でも大会的には問題ない」らしい。


「戦闘に経験がある適任者がいればいいんだが…そう簡単には見つからないな」


ハァ…と疲れたように溜息を洩らすユルゲンス。


「…すまないが『ユルゲンス』と言ったな。大会参加者は戦いに慣れていればいいんだな?」


イザヤが確認するように、ユルゲンスに対して代行者の条件を復唱する。


「ああ、そうだが…」

「参加者の人数に指定は?」

「対戦相手によって組み合わせもあるが…人数は多くいるのが望ましいな」

「なら…ここに該当者は揃っている」


イザヤは意味深気な視線を、カナンやミラ達一人一人に向けていく。


「私達が代表者になろう。その対価として…ワイバーンを貸してもらえるだろうか?」


彼の意図を見抜いたミラがすかさず、申し出た。

ユルゲンス達は目を瞬きさせて「いいのかい?」と念のために聞き返してきた。


「はいはい! 参加します!」

「レイア…そんなに意気込まなくても」

「だって、闘技場大会に参加って燃えない?」

「…まだ確定してもいないのに」


既に参加者気分のレイアに、ジュードは半目で呆れている。


「…よし、じゃあ君達にお願いしよう。但し、代表として参加するからには、優勝してほしい」

「分かった、約束しよう」


契約は成立した。

『優勝』という難易度が高い条件付きだが、交通手段を得るためにもやるしない。

ユルゲンスの仲間二人がトーナメントの登録と宿屋の手配をしてくれる事となり、これからの予定をユルゲンスが説明してくれた。


「本番は明後日。闘技場の雰囲気と公式ルールになれるためにも、明日は予行演習をしよう」

「まっさか、参加する事になるとな~…」

「アルヴィンさん、闘技場とか苦手なの?」


面倒くさそうに後頭部を掻くアルヴィンに、カナンが尋ねると…


「参加するのはいいんだよ。ただ、身内に…おふくろには知られたくねえんだよな」

「アルヴィンさんのお母様は息子思いな方なのですね。アルヴィンさんもですが…」


ローエンが微笑ましそうに言うと、アルヴィンは恥ずかしそうに「うるせー」と呟く。


「さっき、仲間が他のトーナメント参加者の人数の平均を調べてくれたんだが…だいだい7人程度が目安だ。

もしも、体調がすぐれなかったり、棄権したい人はムリしなくていいよ」


無茶して怪我をされても困るからな、とユルゲンスが苦笑して言う。


『誰か一人は休めるんだねー』

「もしもの時の為に、一人は待機していた方がいいかもね」


ティポとレイアが和やかに会話する中、トーナメントの参加者リストを見ていたミラは難しそうに眉を寄せる。


「そうだな…カナン、君はどうする?」


彼女が、カナンに意見を求めたその時…「えっ…」とユルゲンスの表情に驚愕が生まれた。



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