第7章:真実が落とす影
名を呼ばれ、男性…イザヤはこっちへよってきた。
カナンに対し、すっ…と手を差し出す。
カナンは彼の視線を見つつ、手を重ねると丁重に起こしてくれた。
「久しぶり」
カナンがそう挨拶すると、イザヤは「ああ」と簡潔に返して、倒れているミラにも手を差し出す。
「ありがとう…君は…?」
「紹介は後だ。その前に…被害状況の確認だ」
イザヤから言われた事に、カナンとミラは周囲を見た。
崩落した岩を直前で、イザヤが解体した事により被害はある程度食い止められた。
だが、岩や瓦礫の残骸などで道が遮られ、通行止めになっている。
「レイア、大丈夫!?」
「あっ…うん……」
ジュードに庇われて、レイアは難を逃れたものの、ジュードと同じく全身は土埃にまみれている。
「それよりも…ジュードは?」
「僕なら……ッ…へいき…だよ」
口では平気だと言いつつも、腕に痛みが生じたジュード。
ちょっと、腕をみせて…とレイアが咄嗟に服の袖を上げると、上腕部分に擦り傷ができて血が滲み出ていた。
「ごめん…私の所為で…」
「気にしないで。このくらい…」
自分の所為で怪我をさせてしまった、と落ち込むレイアを、ジュードはフォローする。
落石の影響で、地元の住民達も集まり、騒いでいる。
「あなたたち、大丈夫?」
すると、住民の一人が進み出て、ジュードの腕に手を当てた。
肩の上で切りそろえた黒髪で、20代半ばの女性だ。
「じっとしてて、私は医者だから」
「すみません…助かります」
ジュードは治療してくれる親切なその女性に頭を下げる。
「おい、怪我はないか?」
「う、うん…」
アルヴィンは、歩いていた町の少年に向かって尋ねる。
危うく命の危機にさらされた事をジワジワと実感していた少年は顔を蒼白にしつつもこくこくと頷く。
負傷もしていないようで、抱きかかえていた少年を解放すると、ジュード達のもとへ行く。
「ジュードは治療中と…レイア、立てれるか?」
「…うん、ありがと…」
アルヴィンに手を差し出され、レイアは手を握りしめ、立ち上がる。
不意な事故に遭遇して、精神的なショックがまだ抜け切れていないようだ。
「俺の雇い主様とミラ様は…無事か。てか…あいつ誰?」
「カナンさんのお知り合いのようですよ」
アルヴィンは、カナンとミラの傍にいる見知らぬ青年に眉を潜める。
ローエンは、一度彼と会った事がある。
カラハ・シャールにいた時に、カナンへ手紙を渡すように頼まれたのだ。
遠目からカナンと親しく話している様子を見て、改めて彼女の仲間だと感じた。
「きれいな男の人、です…」
『すっごく美人さんだよ~!』
ローエンと同じく、エリーゼとティポも美青年と面識を持っていた。
もう一度会えるとは予期していなかったのか、エリーゼとティポは歓喜している。
視線に気づいたカナンが、ミラに声かけすると、彼等の元へ早足で近づく。
「皆、大丈夫!?」
「俺らはへーき。優等生はちと負傷したが…問題なさそうだ」
幸い、大した傷ではなかったため治療は短時間で済んだ。
「ありがとうございます…えっと…」
「イスラよ。大した怪我じゃなくてよかったわね」
ジュードが御礼を言うと、女性…イスラは笑って名を教えてくれた。
「あ、あの…イスラさん、本当にありがとうございました!」
レイアが深々と頭を下げて感謝の言葉を言う。
傷が塞がったジュードの腕を見て、レイアは安堵したのか、目が潤んでいる。
「レイアちゃん…はい」
「……すみません」
カナンがさりげなくハンカチを渡すと、レイアはそれを受け取り、目元を隠すように抑える。
「仲間を助けてくれて感謝する」
ミラも礼を言うと、イスラはどういたしまして…と満更でもない感じだ。
「そういえば貴方達、ここの人間じゃなさそうだけど、この街へは何をしに?」
「私達はイル・ファンまで行かなくてはならない。ここではキタル族がワイバーンを管理してると聞いてな…」
ミラが事情を説明すると、イスラはなるほどね…と頷く。
「それなら、この先の橋を渡った所に大きな檻があるわよ。キタル族の人達も交替で管理しているようだし…行ってみてはどう?」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「お役に立ててよかったわ。じゃあ、私はこれで…」
イスラは手を振ると、その場を立ち去った。
「ワイバーンの居所も分かった。早速行ってみようか」
「うん、そうだね…」
ミラの言葉に、全員が賛同する中、レイアはぎこちない感じで頷く。
露骨に落ち込んでいる彼女を見て、ジュードはどう対応すればいいか悩んでしまう。
「レイアちゃん、そんなに落ち込まないで。今回の崩落は突然の事故だったんだから…」
あまりにも気を病んでいるレイアを見ていられなくなり、カナンがフォローする。
『そーだよ! それにもしも、助けに行ったのがローエン君だったら腰痛めてそれどころじゃなかったかもしれないよ~』
「むむっ…その言い草、聞き捨てなりませんな。この年寄りは力不足だと言いたいのですか」
慰めようとして、ティポは余計な事を言ってしまい、ローエンは眉を寄せて「失礼な」とティポを掴み、両手で引っ張り上げる。
「この、この!」
『きゃ~、のびちゃーう!』
「や、やめて…ください…」
エリーゼがあたふたとローエンにしがみつき、ティポを取り返そうとする。
「なにやってんだよ、じーさん…」
「あはっ…あははは…」
様子を見ていた、アルヴィンが呆れたように呟くと、レイアは笑い出した。
「もう、ティポが可笑しくて…」
『ガーン! 困ってるのに笑われた~!』
笑いのネタにされたティポはショックを受けた。
『もー! レイア君ひどいぞ~!』
「あはは…ごめんごめん」
解放されたティポは、レイアの周りを旋回してぷりぷりと怒る。
レイアが笑って謝るその姿を見ながら、ジュードはホッとした。
カナンが、ふとローエンに視線を向けると、彼はニコッと満足そうに頷いた。
(…さすがね)
指揮者(コンダクター)のさりげない気遣いに、カナンは感心した。
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