第7章:真実が落とす影
カナンが皆がいる場所へ戻っていると、岩陰でミラとジュードが話をしていた。
「ねぇ、ミラ…以前から聞きたい事があったんだけど」
「何だ、ジュード?」
「黒匣は、クルスニクの槍を動かすだけじゃなくて、普賢さんや三精霊を捕えるだけの装置でもあるんだよね。それってかなり凄い技術なんじゃないかな…と思って」
リーゼ・マクシアでは、人の生まれ持った霊力野で精霊術の素養が左右される。
しかし、黒匣は戦争などの危ない事に使用しなければ、霊力野に頼らずとも、素質がない人でも強力な精霊術を行使できる…便利なものではないか?
ジュードが自らの意見を言うと、ミラは厳しい口調でこう返した。
「便利だからこそ恐ろしいのだ。誰でも四大やエクレシアを捕えるだけの術を操り、人殺しに利用できる。そんなものをのさばらせておくのは危険すぎる…」
「まあ、それはね…」
ふと、ジュードの視線がカナンを捉えた。
「あ、ごめんなさい。二人が会話中だったからどのタイミングで声かけようか迷ってて…」
「いや、いいよ。ジュード…他の皆を呼んでくれ。そろそろ出発しよう」
「うん…分かった」
ジュードは軽く頷き、他の仲間達を呼びに行った。
ミラと二人きりになると、カナンは彼女の傍に近づき口を開く。
「言わなくていいの?」
「…何を?」
「貴女を狙う『組織』の事。まだラ・シュガル軍しか目をつけていないけど、いずれ襲撃してくるはず。その時は、貴女だけじゃない…ジュード君達も標的になるわよ」
心配そうに尋ねると、ミラは「そうだな…」と目を伏せて静かに呟く。
「…近い内に皆にも話そうと思う。ラ・シュガル軍の黒匣の知識と技術を教えたのも…あの組織。近い内に牙を剥く可能性もあるだろう」
「ねぇ、ミラ…」
言い終えたミラが踵を返そうとしたその時、カナンは呼び止めた。
「カナン?」
「…絶対に、無茶しないでね」
切実な顔で懇願するカナンに、ミラは微かに目を見開く…そして少し困った笑みを浮かべて「善処するよ」と答えて、仲間の元へ歩き出した。
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ラコルム街道を半日かけて渡り、ミラ達は目的地であるシャン・ドゥへ辿りついた。
「ここがシャン・ドゥ…」
ジュードは目の前に広がる光景に息を飲み込む。
ラ・シュガルではあまりお目にかかれない、深い歴史と民族的な色合いが強い街並みに圧倒されそうだ。
「なんでわざわざこんな所に町を作ったんだろう」
「そうだね、あんまり住みやすそうじゃないのに…」
「ア・ジュールは古くから部族間の戦乱が絶えなかったため、いざという時に備えた城塞都市が各地で発展したそうです」
ジュードとレイアの疑問に、ローエンが歴史の豆知識を交えて答える。
「じーさんの言う通り、この町もその一つだ。ア・ジュールが統一される前は、内乱も珍しくなかったようだぜ」
「さっすがアルヴィン君! 地元出身だから色々知ってるんだねー」
「地元っていっても生まれ故郷じゃねえけどな…」
レイアの褒め言葉に、どこか微妙な顔になるアルヴィン。
「それにしても、人間が生き生きしてるな。祭りでもあるのか?」
「ああ~…そういや、今年だったんだな。あのイベント…」
ミラの言葉を聞き、アルヴィンは思い出したように呟く。
「イベントって?」
「この町では10年に1度、部族間で闘技大会が行われるんだよ。周辺地域に住む部族が集まって競うって事もあって、ア・ジュールじゃ有名な一大イベントなんだ」
「へぇ~…」
カナンが興味深そうに、アルヴィンの解説を聞いていると、ティポが何やら落ち着かない様子で目をパチパチさせている。
『あれ? あれれー?』
「どうしたの、ティポ?」
ジュードが訳を訊くと、ティポは宙に浮いたまま振り返り言った。
『ぼく、ここ知ってるよー。ねぇ、エリー?』
「うん…」
ティポの言葉に小さく頷くエリーゼ。
真剣な面持ちで、この町を見つめている。
「じゃあ、エリーはここに住んでいたの?」
「分かりません…でも、おっきいおじさんにハ・ミルに連れていかれる時に来たんだと思います」
頭の記憶を掘り起こそうとするが、なかなかうまくいかずに、エリーゼは苦しげな表情を浮かべる。
「もしかしたら、この町に何か手がかりがあるかも…」
「…そうかもしれませんね」
カナンとジュードは、小声で話す。
もしも、この町がエリーゼの故郷…あるいは近しい場所ならば、彼女の両親に繋がる情報が得られるかもしれない。
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