第7章:真実が落とす影


カナンが皆がいる場所へ戻っていると、岩陰でミラとジュードが話をしていた。


「ねぇ、ミラ…以前から聞きたい事があったんだけど」

「何だ、ジュード?」

「黒匣は、クルスニクの槍を動かすだけじゃなくて、普賢さんや三精霊を捕えるだけの装置でもあるんだよね。それってかなり凄い技術なんじゃないかな…と思って」


リーゼ・マクシアでは、人の生まれ持った霊力野で精霊術の素養が左右される。

しかし、黒匣は戦争などの危ない事に使用しなければ、霊力野に頼らずとも、素質がない人でも強力な精霊術を行使できる…便利なものではないか?

ジュードが自らの意見を言うと、ミラは厳しい口調でこう返した。


「便利だからこそ恐ろしいのだ。誰でも四大やエクレシアを捕えるだけの術を操り、人殺しに利用できる。そんなものをのさばらせておくのは危険すぎる…」

「まあ、それはね…」


ふと、ジュードの視線がカナンを捉えた。


「あ、ごめんなさい。二人が会話中だったからどのタイミングで声かけようか迷ってて…」

「いや、いいよ。ジュード…他の皆を呼んでくれ。そろそろ出発しよう」

「うん…分かった」


ジュードは軽く頷き、他の仲間達を呼びに行った。

ミラと二人きりになると、カナンは彼女の傍に近づき口を開く。


「言わなくていいの?」

「…何を?」

「貴女を狙う『組織』の事。まだラ・シュガル軍しか目をつけていないけど、いずれ襲撃してくるはず。その時は、貴女だけじゃない…ジュード君達も標的になるわよ」


心配そうに尋ねると、ミラは「そうだな…」と目を伏せて静かに呟く。


「…近い内に皆にも話そうと思う。ラ・シュガル軍の黒匣の知識と技術を教えたのも…あの組織。近い内に牙を剥く可能性もあるだろう」

「ねぇ、ミラ…」


言い終えたミラが踵を返そうとしたその時、カナンは呼び止めた。


「カナン?」

「…絶対に、無茶しないでね」


切実な顔で懇願するカナンに、ミラは微かに目を見開く…そして少し困った笑みを浮かべて「善処するよ」と答えて、仲間の元へ歩き出した。


◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇


ラコルム街道を半日かけて渡り、ミラ達は目的地であるシャン・ドゥへ辿りついた。


「ここがシャン・ドゥ…」


ジュードは目の前に広がる光景に息を飲み込む。

ラ・シュガルではあまりお目にかかれない、深い歴史と民族的な色合いが強い街並みに圧倒されそうだ。


「なんでわざわざこんな所に町を作ったんだろう」

「そうだね、あんまり住みやすそうじゃないのに…」

「ア・ジュールは古くから部族間の戦乱が絶えなかったため、いざという時に備えた城塞都市が各地で発展したそうです」


ジュードとレイアの疑問に、ローエンが歴史の豆知識を交えて答える。


「じーさんの言う通り、この町もその一つだ。ア・ジュールが統一される前は、内乱も珍しくなかったようだぜ」

「さっすがアルヴィン君! 地元出身だから色々知ってるんだねー」

「地元っていっても生まれ故郷じゃねえけどな…」


レイアの褒め言葉に、どこか微妙な顔になるアルヴィン。


「それにしても、人間が生き生きしてるな。祭りでもあるのか?」

「ああ~…そういや、今年だったんだな。あのイベント…」


ミラの言葉を聞き、アルヴィンは思い出したように呟く。


「イベントって?」

「この町では10年に1度、部族間で闘技大会が行われるんだよ。周辺地域に住む部族が集まって競うって事もあって、ア・ジュールじゃ有名な一大イベントなんだ」

「へぇ~…」


カナンが興味深そうに、アルヴィンの解説を聞いていると、ティポが何やら落ち着かない様子で目をパチパチさせている。


『あれ? あれれー?』

「どうしたの、ティポ?」


ジュードが訳を訊くと、ティポは宙に浮いたまま振り返り言った。


『ぼく、ここ知ってるよー。ねぇ、エリー?』

「うん…」


ティポの言葉に小さく頷くエリーゼ。

真剣な面持ちで、この町を見つめている。


「じゃあ、エリーはここに住んでいたの?」

「分かりません…でも、おっきいおじさんにハ・ミルに連れていかれる時に来たんだと思います」


頭の記憶を掘り起こそうとするが、なかなかうまくいかずに、エリーゼは苦しげな表情を浮かべる。


「もしかしたら、この町に何か手がかりがあるかも…」

「…そうかもしれませんね」


カナンとジュードは、小声で話す。

もしも、この町がエリーゼの故郷…あるいは近しい場所ならば、彼女の両親に繋がる情報が得られるかもしれない。



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