第7章:真実が落とす影


シャン・ドゥは川の流れが長い時間をかけ、作り上げた長大な峡谷に築かれた町だ。

中心に川が流れ、その左右に切り立った崖が続いている。

その崖を巧みに利用して、石造りの民家や高層建築物が建てられていた。

町のあちこちには大きな石像が設置されている…これは偉大な先祖への崇拝と、精霊信仰が一体となって作られたらしい。


「ふぅ…今日もいい天気ね」


銀の長い髪を上品に結わえた女性は、陽の光の眩しさに手で視界を守る。

女性…レティシャは週に一度ある深夜勤務の仕事を終え、日用品を購入して帰路へついている最中だった。

以前は、ラ・シュガル領のル・ロンドの町に住んでいたが、そこでお世話になった宿屋のおかみさんの伝手で、この町で暮らすようになった。

週に五日飲食店の店員として働いているが、非番の時は御手製のパイを売る生活だ。

最初は、慣れない土地と人間関係に戸惑う事もあったが、今では親しい友人もでき、個人的には満足な暮らしをしている。


「レティシャさん、今日は野菜が安いよ~。どうだい?」

「あら…何がお勧め?」

「トマトはどうだい? いつもは250ガルドだが、今日は200ガルドだ!」

「うーん…その値段だともうちょっとおまけしてもらえると嬉しいわね」

「くぅー、仕方ねぇ~…プラス二個おまけでどうよ!」

「じゃあ、買っちゃうわ。ありがとう♪」


馴染みのお店で野菜をサービスしてもらった。

ルンルン気分で、自宅へ帰ろうとした時…


「すみません」


声を掛けられてくるりと後ろを振り向くレティシャ。

見知らぬ青年だった。

片目を隠した青銀色の髪で、中性的な顔立ち。

黒いコートを纏い、明らかに外からきた人間だ。


「レティシャさん…でよろしいですか?」

「はい、レティシャは私ですが…」


若干、戸惑いの色を含んだ表情で、レティシャは答える。

青年は口元を少し緩めて、温和な感じで話を続ける。


「よかった。僕は―――」


◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇


ラコルム街道を歩いていたミラ達は、道中身体を休めるため、休憩を取っていた。


「レイアちゃん。大丈夫?」

「はぁ…はぁ…あ、ありがとうございます…」


カナンは、バテているレイアを気遣う様に声をかけた。

レイアはかすれた声で御礼を言いつつ、視線は自ずと下へ向いてしまう。


街道を渡っている最中、魔物と頻繁に遭遇した為、戦闘が続いた。

ミラやジュード、アルヴィン、ローエン、エリーゼ達は、こういう事態に慣れていたため、さほど問題ない。


しかし、レイアはそうはいかなかった。

最初は、元気よく混を振るっていたものの、回数を重ねるごとに息切れをしだした。

カナンが想定した事が現実となったのだ。

彼女のスタミナ切れは、他の人の目からみても明らかであり、ジュードが何度も「休もう」と助言したが、レイアは首を縦に振らなかった。


『だ、だいじょうぶだって…! 早くシャン・ドゥに行かないと…ダメでしょ…』


仲間になって張り切っていた手前、序盤から皆の足を引っ張りたくないという思いから、レイアは気合いで乗り切ろうとしていた。

そんな彼女を見かねて、カナンもジュード同様に休憩を取る事を提案した。

ミラはそれを了承してくれた。


身体を休めている間、魔物が近寄らないよう、カナンは所持していた荷物から、アイテムを取り出す。

―――『ホーリーボトル』

これには、魔物が嫌いな成分が含まれており、身体に塗ったり、周囲に振り撒く事で、一定時間魔物を遠ざける効能がある。

旅人や商業関係者は必ず所持している必需品だ。

カナンは、ホーリーボトルを少量ずつ自分達が休んでいるフィールドの周りに垂らしていく。


「バリア」


そして、防御用の呪文を唱えると、カナン達の周囲に結界が出来上がった。

この呪文は、戦闘時に味方を敵の攻撃から短時間守る効果があるが、ホーリーボトルを使う事でそれより長い時間、広範囲に防御壁を作り上げられる。

一種の「裏ワザ」のようなものだ。


「これで半日程度は魔物を退けられるわ」

「カナンさん…すごいです」

『僕達、戦闘せずにらくらくできるねぇー♪』


エリーゼとティポは、その裏ワザに感激する。

それぞれが身体を休める中、カナンは荷物のポケットに入れていた携帯が鳴っている事に気づく。

少し離れた岩場に行き、携帯をみると…メールがきていた。


「誰から…あ、リエさん」


メールの送り主は、リエだった。

少し長文の内容に目を通していると…


《シャン・ドゥに、13機関のメンバーがいます。いい情報を教えてくれると思いますよ》

(13機関のメンバーか。知ってる人かしら…?)


メールを読み終えた直後、新しいメールが届いた。


「えっ? 次は…お、アンジール」


続いて、心友からのメッセージを読みだす。


《現在、イル・ファンにてラ・シュガル軍の動向を調査中。そちらに仲間を一人派遣した。上手くいけばシャン・ドゥへ合流できるだろう》

(…はっ! おいおいおい…誰がくるの!?)


その内容に目を丸くするカナン。

仲間という事は、ザックスかもう一人の青年の二人を指しているのだが、どちらが来るのだろうか?

カナン本人は、久方ぶりに親しい友に会うのは全然構わないが、同行しているミラ達にどう説明すればいいだろうか…。


(タイミングを見計らって言おうかな…)


と考えながら、カナンは携帯の一旦、荷物袋へしまった。



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