第7章:真実が落とす影


「『ワイバーン』って…」

「ア・ジュールに生息する飛行型の魔物だよ。運搬や移動する時に、その魔物達を利用するらしいよ」


聞きなれない名前に、レイアが疑問符を浮かべると、ジュードがすかさず意味を教えた。


「ア・ジュールには、魔物を使役するキタル族がいるの。その人達がワイバーンを管理しているらしくて…彼らに頼んで借りようと思っている」

「けどな…キタル族といや、ア・ジュールが統一する前に栄華を築いていた有力部族のひとつだぜ? そう易々と貸してもらえるのか?」


その案に、アルヴィンは懐疑的だ。

そう簡単に上手くいく程、甘くないと思うぞ…と彼は忠告する。


「確かにね…でも、やってみないと分からないわ」

「カナンの言う通りだ。今の私達には、選択肢が限られている。可能性があるなら、まずはそれをやるべきだ」


ミラも、カナンのアイディアに賛同した。


「…まあ、ミラ様と雇い主様がそう仰るなら、雇われの身の俺は従うしか選択はないよな」


しょうがねえな、とアルヴィンは渋々了承する。


「キタル族は、ラコルム街道の先にある【シャン・ドゥ】という町でワイバーンを管理しています。我々が向かう最初の目的地がそこです」

「なるほど~…」


ローエンが話のまとめを言うと、レイアはふむふむと納得したように頷く。


「そういえば…【シャン・ドゥ】って、アルヴィンの今の実家があるところだよね」


町の名前を聞いて、ジュードはふと思い出したのか、本人に尋ねた。


「ん、ああ…そうだな」

「久しぶりの帰還でしょう。ご家族と会ったらどう?」

「うーん…手紙は定期的に送ってたが、顔見せといた方がいいかもな」


カナンが気を遣って提案すると、アルヴィンもそうしようかな~と前向きなようだ。


「せっかくだし、アルヴィン君の家みたいよね~、そう思わない? エリーゼ」

「はい…!」

『アルヴィン君の家でお泊りしちゃおうかな~♪』

「ふむ、そうすれば食事代と宿代も浮くな。シャン・ドゥの家庭料理もぜひとも味わいたいものだ…ジュル」


「…ってこらぁ! 勝手に俺んちを宿代わりにするなよ!」


にぎわう女性陣に、アルヴィンが焦ったように勢いよく突っ込む。

ジュードは彼らのやり取りに苦笑し、ローエンはほほほっ…と朗らかに笑って見守る。


『……ミラ、変わたでし』


人間であるジュード達と楽しそうに語らう主の姿を見て、ノームは静かに驚いている。


「ええ、彼女は変わりました。“いい意味”でね」


ミラは変化した…眷属の地の大精霊すら分かる位に。

ノームはこの変化をどう感じているのだろう?


「人が変われるように…精霊もまた、変わる事ができる」

『それは…どういう意味でしか?』


カナンの言葉に対し、ノームはこてんと首を傾げる。


「ミラは成長している最中なんです―――『心』がね」




【その眼差しは、母親のように慈愛に満ちていた】




「シャン・ドゥに…ですか?」


主が命じた事に、うちはイタチは目を細める。

何故、闘技場が盛んな時期のあの町に赴くのか…という疑問が浮かんだ。

その裏の意味を思案していると、結晶石越しにヴァンスは笑みを深める。


『あそこには、“あいつ”の結晶華がある』

「…!? それは真ですか…!」

『“あちらの世界”の住民が持っているようだ。だが…勘の鋭い奴らが何名か接触しようとしている』

「その者達よりも先に、奥方様の結晶華を奪還しろと?」


部下の敏い返事に、ヴァンスは満足げに「そうだ」と言う。


「承知しました。すぐにシャン・ドゥへ向かいます」

『そう急ぐな。……もう一つ、注意事項を言っていく』

「何でしょうか?」

『“小鳥”と“片翼の天使”、こいつらの動向は警戒しておけ。小鳥はまだしも、片翼のあの男は良くも悪くも《運命の流れ》を変動させる奴だからな』


その二つの単語が差す人物を、イタチはよく知っている。

一人はカナン。

もう一人は…イザヤ。

自らが認めた好敵手のようで、戦友の様な美しい男性だ。


(できれば、無益な争いは避けたいが…カナンさんが関わるとなると、おそらく…あいつは彼女の味方につくだろう)


例え、親しい知己であろうとも、主に仇なす場合は容赦するつもりはない。

イタチはヴァンスに一礼すると、周囲に広がる闇と同化して、その場から姿を消した。


『さぁて…じっくりとあぶり出してやるか。待ってろ―――“リエ”』


暗い深淵の闇の彼方で、ヴァンスは愉悦を孕んだ顔で好敵手であり、妻である彼女の名を口にした。





【つづく】

3/32ページ
スキ