第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり


「だから…私、本当のお父さんとお母さんが今、どこにいるのか…私が生まれたのはどんなところだったのか、知りたいんです…」

『僕もエリーのコキョウをみてみたいんだよ~…ねぇ、カナン君、ミラ君。もう一度僕達を旅につれてって~!!』


必死に懇願するエリーゼとティポ。

どうする、とカナンは暗にミラに視線を向けた。

ミラは腕を組んで、エリーゼとティポを交互に見ると口を開いた。


「つまり、エリーゼ…君は実の両親の足跡を探したい。それで、私達に同行したいのだな?」

「はい…ミラの使命を邪魔しない様に、努力します」

『エリーがいれば、みんなのケガを治しちゃう! 僕は敵を油断させてイチモーダジンにしちゃう! まさにヒャクニンリキー!』


確かに、エリーゼの精霊術は強力だ。

ティポもいれば、戦闘時に敵をかく乱させる事も期待できる。

けれども、あのガンダラ要塞での出来事もあり、まだ年端のいかない彼女達を命の危険に晒したくないのが、カナンの心情だ。

おそらく、ジュードとローエンも同じ気持ちのはずだ。


「いいんじゃないか」


意外にも、容認の言葉を発したのは…アルヴィンだった。


「アルヴィンさん…」

「エリーゼだって、前の旅で十分戦力になっただろ。これから、ラ・シュガルに喧嘩ふっかけるんだ。回復術ができる人材がほしいだろ?」

「確かに…協力してくれる仲間が一人でも多くいると心強い」


ミラも、彼のその言葉に同調する。

思わぬ人物からの擁護に、エリーゼは期待を寄せる眼差しを送る。


「カナン…私は使命の障害にならなければ、エリーゼにも同行してもらいたい。だが、君の判断も聞きたい」


カナンは気難しそうな表情で周りのメンバーを見た後、エリーゼとティポに視線を移した。

エリーゼは絶対に譲らないという顔で、見上げている。

少しの間逡巡した後、カナンは真一文字にしていた口を開いた。


「…分かったわ」

「本当ですか!?」

『ヤッタ―――!!』


了承されるや、エリーゼとティポは喜びをあらわにする。

但し…と真面目な表情でカナンが言葉を付け加えようとしているのを目にして、慌てて背筋を整えた。


「エリー、必ずしも貴女の期待している事が現実になるとは限らないわ。もしも、辛い結果になっても…決して自分を見失わないでね」

「は、はい…!」

『りょーかいしましたー!』


その時、船の汽笛が鳴った。


「時間ですね…」


出船の合図に、ローエンが乗船を促す。

乗船口へ向かおうとしたその時…「ジュード!」と声をあげて、ディラックが走ってやってきた。


「と、父さん!?」

「貴方…来てくれたのね」


診療所は、まだ診察時間のはず…。

フェルガナ鉱山での一件以降、気まずく仲直りできずにいた父が駆けつけてきた事に、ジュードは驚きを隠せない。


「…だ、大丈夫?」

「…ジュード、お前に渡したい物がある」


ディラックは息切れしつつも、ジュードに革製の鞄を渡した。


「…これは…」

「昔、私が使っていた物だ。中身は船で確認するんだ…」


ディラックは額から流れていた汗を腕で拭いながら言うと、ミラ達に視線を向けて頭を下げた。


「ジュードを…息子を頼みます」


父親のその態度に、ジュードは胸に形容しがたいじんわりと、熱いモノがこみ上げてきた。


「ジュード…忘れるな。大人になるというのは、自らの行動に責任を取るという事だぞ」

「うん…」

「身体に気を付けてね」

「ありがとう…」


ジュードは両親といくつか言葉を交わすと、ミラ達の元へ足を進めた。


「皆、お待たせ」

「よし、行こう…」


ミラの言葉を合図に、再結集した旅のメンバーは乗船していく。

船の上から、こちらに手を振る母と、ジッとこちらを見つめている父に、ジュードは小さく手を振る。

そして、ル・ロンドをでた船は北北東に向けて進路をとり、次なる目的地へ進みだした。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「ねぇ、アルヴィンさん」


甲板で海を眺めているアルヴィンに、カナンは声をかけた。


「ん、なんだ?」

「なんで、エリーとティポ君を旅に同行させたいって言ったの?」

「さっき言っただろ。少しでも戦力が必要じゃないかって…」

「本当にそれだけ?」


訝しげに尋ねるカナン。

アルヴィンの語る理由事態はおかしくない。

でも、同時に不自然に感じた。

彼は何かを隠している…エリーゼとティポを手元に置きたい理由が他にもあるのではないか、と感じた。

真っ直ぐに見据えられ、アルヴィンはどこかバツが悪そうに目を逸らす。


「他に理由があるなら言ってほしいの。お願い…」

「…以前から疑問に思っててさ。エリーゼとティポは、なんでハ・ミルに軟禁されていたのかっ、てな…」


彼が言い出した事に、カナンはハッとしたように「そうね…」と相槌を打つ。


「傭兵している身だから、その筋の連中とは交流しててね……二国の情勢や裏事情とかもある程度は知ってる。

…それで、思い出したんだ。ア・ジュールが秘密裏に実験を行ってるって噂を…」


「実験…ですって…?」


「詳しい内容は分かんねえけど…先の大戦で親を亡くしたり、人身売買されていた子ども達をどこかの実験場に集めて、何かを開発していた。

噂じゃ、そこはもう廃棄されてなくなったらしいけどよ…なあ、カナン。これだけ話せば、俺の言いたい事解るよな?」


カナンの顔色が徐々に青くなっていく。

大国とはいえ、体制を維持していくためには表と裏の仕組みが必然的に出来上がる。

短い期間とはいえ、カナンが見ていたのはア・ジュールの表の面だけだった。

裏の…表沙汰にはできない事を、ア・ジュールの上層部が行っていてもなんら不思議ではないのだ。


「あくまで俺の想像に過ぎない。でも…間違いないだろ。エリーゼは…その実験場にいた子どもの一人だ」

「じゃあ…ティポ君は、その実験の過程で生み出された『研究結果』って事?」


振り返ってみれば、ガンダラ要塞で捕えられた時、研究員がティポを調べていた。

あれは、ティポの中に特殊な物が組み込まれていて、それを取り出そうとしていたのではないか…?

そう考えると、色々と合点がいく。


「普通なら、カラハ・シャールに戻すのがベストだろうな。けどよ…今度は、あの大男がエリーゼを奪還しにカラハ・シャールへいくかもしれない。

それに、エリーゼはある意味、ア・ジュールの国家機密を抱えてんだ。ラ・シュガルが指加えて黙ってるとは限らねーんじゃないか」


アルヴィンの言うとおりだ。

ナハティガルと対立しているからとはいえ、カラハ・シャールはラ・シュガル領だ。

下手をすれば、強制徴収だけじゃすまない。

それこそ、ア・ジュールが介入して紛争が起こり、戦争の引き金を引いてしまう危険が発生するかもしれない。


「そうか……それで、エリーゼを一緒に連れていきたかったのね」

「そーいう事。もし自分が原因で戦争にでもなったら、それこそトラウマものだろ。シャール卿にも恩があるし、俺達と一緒の方が安全だ」

「優しいのね…」


カナンが微笑んでそう言うと、アルヴィンは眉を潜めて複雑そうな顔になる。


「そんなんじゃねえよ」

「そう謙遜しなくても…」

「カナン…俺はな、そんなお綺麗な性格なんかじゃない。今回の旅だって、俺は金だけのために請け負った訳じゃないんだ」

「えっ…?」


「俺が……俺がこの旅についていく本当の理由は…」



アルヴィンがそう言いかけた時、近くの従業員が大声でわめいて、尻餅をついた。



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