第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり
「答えは―――『NO』 そうだろ、ディラック先生?」
「アルフレド…!」
銃を構えて、得意げに笑みを浮かべるアルヴィン。
突如現れた知人に、ディラックは驚きと同時に安堵した表情を浮かべてしまう。
銃弾は、ヤクモの仮面にあたり、それより仮面が破損して、彼の素顔が露わになっていた。
「あんたの事は、カナンから聞いたぜ。ヤクモ…いや、うちはイタチさんよ」
「……マクスウェル一味の傭兵か」
ヤクモ…イタチはさして動揺する事無く、冷静な様子で、アルヴィンと向き合う。
特徴的な模様の赤い瞳が、不気味な程美しく見える。
全く隙が無く、こちらの動きを静かに見定めているようだ。
額から冷や汗がつぅーと流れるように、落ちていく。
『傭兵』という職種ながら、魔物や盗賊集団などと戦う事は何度もあった。
そんな戦闘経歴を積み重ねていけば、否応にも相手の力量を図れるスキルが身に付く。
(やべぇ…こいつは下手に手を出せねえ奴だ…)
この男は強い。
アルヴィンは銃の引き金を触れる指先が震える。
弱い所を見せれば敵はそこを突いてくる危険性があるため、アルヴィンは眼光を鋭くして威嚇を怠らない。
「なるほど、アルフレド・ヴィント・スヴェント…『あの男』よりはマシな目をしている」
「……なっ…!?」
イタチが発した言葉に、アルヴィンは耳を疑った。
何故、眼前の男が自分の本名を知っているのか…。
次に出てきた『あの男』という単語に、まさか…と嫌な予感がよぎる。
「お前……あいつの…叔父の手先か!」
「…心外だな。あの男とはあくまで利害一致が重なっただけの関係。あの“御方”を復活させるまでのな…」
バァン バン、バン!
数発の弾丸が発射され、それらがイタチの額、首元、胸を貫通した。
バタッと仰向けに倒れた敵の刺客を目にして、ディラックはすぐ視線をアルヴィンに移す。
ハァハァ…と息を荒げて、苦虫を噛み潰した顔を浮かべるアルヴィン。
だが、その表情は再び驚愕に染まる。
弾丸を受けたイタチが仰向けに倒れたかと思えば、それがボンッと煙を出して消失してしまったからだ。
「的確に急所を狙うとは…腕前も上レベルか」
別方向の暗闇の中から、またイタチが現れる。
ど、どういう事なんだ…と目を疑い、動揺するディラック。
アルヴィンも信じられないという顔で、未知数の力を持つ得体のしれない眼前の敵に、恐怖を覚えた。
イタチは歩を進めて、彼らに近づこうとしたが…突如、鳴りだした音に足を止めた。
「……俺だ」
懐から取り出した携帯を耳に当てる。
その機械を見て、アルヴィンとディラックはハッとした。
あの通信用の機械は…故郷で使われている黒匣(ジン)に相当するもの。
咄嗟に、アルヴィンは街の入口に目を向けるが……ミラがやってくる様子はない。
「これは『黒匣』とは違う。ゆえに…精霊の主は来ない。応援を期待しても無駄だ」
「何なんだよ、あんたは…」
「…俺は、マクスウェル一味と戦う気はない。『鍵』さえもらえれば、何もするつもりはない」
「はい。そうですかっ…て簡単に信用すると思うか?」
再度、銃を構えるアルヴィンに対し、イタチは交渉決裂か…と残念そうに呟くと、踵を返した。
「おい…逃げるのか?」
「お前達の事だ。夜が明け次第、この街を出て行くのだろう? ならば争っても無意味だ。こちらも急用ができたからな…」
そちらも望んでいるはずだ、とイタチは見透かしたように、こちらの心情を指摘した。
…その通りだ。
アルヴィンはグッ…と拳を握りしめる。
すると、イタチは途中で足を止めると、肩越しに彼等の方へ視線を向け、こう言った。
「鍵はいずれ渡してもらう。さもなければ、近いうちにお前たちは後悔する事になるぞ」
「……なんだと?」
「鍵の『代用品』を使う事になるからだ…後、金髪のあの少女とぬいぐるみも注意しておいた方がいいかもな」
「てめえっ…!」
仲間が標的になっている事を暗に伝えられ、アルヴィンは血相を変えて怒鳴った。
「エリーゼとティポに何をする気だ…あいつらをアルクノアは何故狙う!!」
「大切なモノを遠ざける行為は、敵が奪い取る絶好のチャンスとなる。あの少女とぬいぐるみが…仲間がそんなに大切なら、精々気を抜かない事だな」
「この…待ちやがれっ!」
アルヴィンは駆け出して、イタチに拳で殴りかかろうとするや…彼は闇に同化するように黒くなり、複数の鴉となって空へと飛んでいった。
【折り重なる幻影、狐の忠告】
「くそっ…!」
地面に拳を叩きつけるアルヴィン。
先程の悪夢が、受け入れがたい現実の一部となった気分だ。
いや…事実、そうなってきているのだ。
あの夢の中の自分も、目的のためにエリーゼとティポを再び仲間に加える提案をしていた。
夢の内容がどんなものだったか、記憶が薄らいでおり、詳しくは分からない。
けれども…エリーゼ達を連れて行き、その結果…彼女にとって悲しい事件が起きてしまう、その結末だけははっきり覚えていた。
「アルフレド…」
彼を見兼ねたディラックが声をかけた。
すると、アルヴィンは叩きつけた手の甲を擦りながら立ち上がる。
「すまねえ、先生…もう大丈夫だ」
「…あ、ああ。そうか…」
「そろそろ街に帰ろう。夜が明けてきた…」
地平線から、陽の光が徐々に差し込みつつある。
夜明けを確認すると、アルヴィンは早足で入口へ向かっていく。
すれ違った際、ディラックは思わず呼び止めようとしたが…声を出す事ができなかった。
それだけ、彼の表情は険しいものだった。
【つづく】
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