第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり
ジュードとニルスは半ば放心状態だ。
一連の非現実的な出来事を目の当たりにして、未だに夢ではないかと疑っている。
「ジュード君、ニルスさん」
カナンが声をかけて、ようやく二人はハッと我に返った。
「あっ…」
なんて話しかければいいのか…。
ジュードの頭に、真っ先にその問題が浮上した。
「お疲れ様。それから…ありがとう」
「えっ…?」
「途中で除霊の手助けをしてくれたでしょう」
カナンが微笑みながら言った事に、ジュードはああ、そうだった…と頬を掻いて曖昧な笑みを返してしまう。
ニルスは、なんとも言えない表情で距離を取って彼等を見つめている。
「これが…エクレシアの仕事の一つだ」
ニルスの微妙な心境を気遣ったのか、アンジールが彼に近寄り、話しかけてきた。
「エクレシアの事を、貴方の主がどう説明したのかは解らない。ただ、その様子だと“真の意味”までは教えていなかったみたいだな…」
「精霊と直に接触して、対等に渡り合える特殊な【種族】だと…けれど、カナン様と貴方は――」
ニルスが言葉を紡ごうとするが唇が震え、上手く喋れない。
だが、彼が言おうとしている事は解っている。
「そう…俺とカナン、リエ殿は一度死んだ身。《エクレシア》とは天界で創造主に導かれて、試練を乗り越えて生まれ変わった【神の卵】
―――つまり、俺達は『天使』や『神族』にあたる者だ」
アンジールはそう語ると、ニルスは「そうだったのですか…」と神妙な面持ちになる。
「カナンを最初に呼び寄せたのは…ア・ジュール王。あの男の特異な能力が開花しなければ、事はややこしくならずに済んだのだが…」
仮に、ガイアスの夢見の能力が未熟なままだったとしても、この世界が抱える問題を調査するためにエクレシアの誰かがきたかもしれない。
ヴァンスが“公に”介入をしていたら、それを口実にリエが行動を起こしていたはずだ。
しかし、アンジールは思った。
どちらにしても、ガイアスは何かしらの接触をしていたに違いない。
そのように推測してしまうのは、間近で彼の執着心と行動力を見たためだ。
「…まあ、今更悔やんでも仕方ない事だな」
「カナン様は…その破壊神を阻止するために…」
事の真相を知り、ニルスは動揺していた。
あまりにも壮大すぎる世界をまたにかけた問題に直面したからか。
あるいは、仕えている主から真実を教えられなかった事へのショックからか…。
「貴方がエクレシアの事をどう思おうと個人の自由だ。だが…これだけは言わせてもらおう。―――どうか、カナンの意思を尊重してくれ」
「…カナン様の…意思」
「あいつは、ア・ジュール王と国の事を恨んではいない。時期がきたら、必ず王と話をつける。それまで…彼女を見守ってくれ」
アンジールは話し終えると、カナンとジュードのところへ歩いていく。
ニルスは顔を俯けて、立ち尽くすしかなかった。
何故なら…眼前で起こった事件や隠されていた事実を許容できるほど、彼は頭と心の整理がついていなかった。
「ご苦労だった」
「あっ、アンジールさん」
話しかけてきたアンジールに、ジュードは会釈する。
「怖かったか?」
「……はい、少しだけ」
「本来なら、無関係である一般人の君に除霊を手伝わせるのはいけない事なんだ。危険な目にあわせてしまいすまなかった…」
「そんな…謝まらないでください! 僕の方こそ…勝手な行動をしてすみませんでした」
ジュードは頭を下げて謝罪する。
アンジールはフッと口元を緩めて、ぽんぽんと頭を撫でる。
「助かったよ。ありがとう…」
御礼を言われて、ジュードは頬を少し赤らめる。
こういう事に慣れていないのか、気恥ずかしいのだろうか…。
「ところで、カナンは?」
「あっ、さっきまで此処にいたんですけど…」
つい先程まで、話していたカナンがいなくなっている事に、ジュードは今気付いた。
辺りを見回して、少し離れたところに姿を見つけた。
しかし、その様子にジュードは小首を傾げた。
なにやら、カナンは真面目な顔で“誰か”と会話をしているようだ―――対面には、誰もいないのに。
「カナンさん、何してるんだろう?」
「…そうか。まだ“一人”残っていたな」
アンジールは思い出したようにそう言うと、仲間のいる所へ足を進めていく。
えっ…えっ…? と訳が解らないまま、ジュードもつられるように彼の後を追った。
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