第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり
アンジールは手元から書物を出現させた。
書物…というよりは、帳簿のようなものにみえる。
「トラヴィス家の本妻ロベルタを筆頭に、長男オーリニャック、次男グラヴェット、三男セレドニオ、長女マグダレーナの罪状を述べる…」
その帳簿はエクレシア等の特殊な地位にある神が所持する、人の生きざまを記録したものだ。
淡々として口調で、トラヴィス家の家族の罪状を述べるアンジール。
そのあまりにも卑劣かつ凄惨な所業に、ジュードは吐き気がした。
隣にいるニルスは、まるで目の敵と言わんばかりに、トラヴィス家の者達を厳しい視線を注ぐ。
「―――以上だ。カナン…この者達の処罰、どう下す?」
「…楽に輪廻転生させる甘い罰にするつもりはない」
普段の口調に戻ったが、相変わらずビシビシと覇気は纏っている。
「この人達には、この世界とは別の裁判所で審査してもらうけど…
現世で度が過ぎる贅沢をした分、労働に従事してもらう」
「なるほど…地獄や冥界の労働は苛酷なものだからな」
「さらに輪廻転生したとしても、前世のペナルティは消えない。
貴族や富裕層になる機会はほとんど不可能になるわね」
その会話を直に聞いていたジュードは、重々しく厳格な雰囲気に飲まれてしまいそうになる。
これは…まるで裁判にかけられている感覚だ。
いや、実際に罪を裁こうとしている現場を傍聴しているのだ。
(エクレシアは、魂になった人をこんなふうに裁いているんだ…)
昼間、カナン達から話は聞いていたものの、生の現場をこの目で見ると…全く違う。
何より、カナンとアンジールの双方が真剣に話あって、怨霊達の処遇をきちんと審議しているところに形容し難い高揚感を覚えた。
いくら、悪人だったとはいえ、無暗に重いペナルティを貸すのではなく…彼等に見合う刑罰を一生懸命考えている。
それは、ある種の神聖さも醸し出していて…傍聴者であるジュード達には印象深く映る。
だが、被告人の立場の者達にとって、彼等は脅威の存在に映っていた。
普通の人間であれば、素直に従うかもしれないが、大貴族である事を誇示していたトラヴィスにとって、それは受け入れ難い事だ。
何より、審議している二人…自分達より格下(独断と偏見によるもの)風情に、これからの処遇を決められる事が屈辱だった。
「じゃあ、身柄は―――行きという事で」
「ふむ、妥当だな」
判決が決まった様だ。
二人の会話から、自分等は身分が剥奪され、もう二度と貴族へ生まれ変わる事がない事は否応にも耳に入った。
(我々に…下級層共と同じになれというのかッ…くそ、クソクソクソくそくそぉおおお!)
「では、判決を述べます。トラヴィス家5人は…」
カナンが口を開こうしたその時―――
「ぁああああ!!」
地べたに座り込んでいた一人…長男のオーリニャックが立ち上がると隠し持っていた(?)短剣を手にして、勢いよく突進してきた。
しかし、それはカナンに刺さる事無かった。
「がぁああああ!?」
「己の非を認めるどころか、逆切れか…」
アンジールが、オーリニャックのナイフを持った腕を右手で掴み上げて、ギリギリと握りしめる。
ナイフはカランッと地へ落ち、アンジールは足でそれを蹴って届かないところまで移動させる。
「軍属の端くれなら…潔く受け入れんか!」
ドゴッ!
強烈な右ストレートをオーリニャックの頬にお見舞いした。
綺麗な弧を描いて、他の4人のもとへ落ちていく長男。
長女は、その兄の下敷きになって白目をむいて泡を吹いた。
次男はもともと青白い肌がさらに濃く青ざめていき、顔を俯けて歯をガチガチ震わせる。
三男は「たっ…たすけてくれ…!」と悲鳴をあげて逃げ出そうとするも、足がもつれて頭から倒れこんでしまう間抜けぶりだ。
「おっ…お前らはいったい何者なの…! こっ、こんな真似をして…我々を…貴族…あっ…あああ…」
本妻のマグダレーナは、もはや半狂乱気味に叫んだ。
「私達はエクレシア―――導き神、マクスウェルと同じく、魂をさばく権限を持った『審判者』よ」
【罪人に制裁を】
この出来事は、僕とニルスさんの記憶に深く刻まれる事になった。
神と人間との繋がりをもつ種族―――【エクレシア】という存在を。
彼らが抱えるもの―――それが如何に重くて、万人には理解し難いものなのか…。
この時点で、僕達はまだ知らなかった。
後に、彼らがこの『世界』ともう一つの《世界》を繋げる役割を担う事も…誰も想像できなかった。
【つづく】
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