第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり


蜂の鋭い針が、標的へ貫通する事はなかった。

それどころか、乗っ取ろうとしたその器となる女性がいなかった。



『なっ…どこ…へ…!』


「己よりも強い相手と解り怯える

―――その気持ちだけならまだしも、非力な存在へ暴力の矛先を向ける所業は…感心しませんね」



蜂だけでなく、ジュード達はその声に自ずと視線をあげた。

女性は宙を舞っていた。

正確に言えば―――純白の透き通る光翼を広げて飛んでいた。


「リエさん…!」

「あれは…」


ジュードとニルスの目は、女性…リエのその姿に釘づけになっていた。


「念には念を…という事だな」


アンジールは、俄かに口元が上がる。


「覚悟はできていますね…? 怨霊の方々」


リエは、毅然とした面持ちで下で蹲る蜂…いや蜂もどきに告げた。

ひっ…と悲鳴をあげ、蜂もどきは逃げようとするが…恐怖心から身動きがうまくとれない。


リエは祈る様な仕草で両手を握る。


「その御名の許 この汚れた魂に裁きの光を降らせ給え…」


閉じていた目を開けて、左手を頭上へ掲げた。


「【ジャッジメント】!」


眩い光の雨が、刃の如く蜂へ降り注ぐ。


『ギャァアアアア!!! からだがカラダがぁあああ!?』


浄化の光を諸に浴びて、蜂もどきは既に身体に限界がきたのか、ボロボロと砕けたコンクリートのように身が剥がれていく。

やがて、元のスライムへ成り下がり、そこから吹き出す煙のように黒い霧がでてくる。


「カナンさん…あとは頼みます」


地へ降り立ち、光翼をしまったリエが通り過ぎる際にカナンに静かにそう言った。

カナンは双銃を取り出してゆっくり近づく。


「この世にはびこる悪に染まりし魂よ。罪咎の深き所業の報いをその身に刻みなさい」


『まっ、まて…!』

『わ、私達は…あの子に当たり前の日常を奪われたのよ! 復讐して…何が悪いの!?』

『そ、そうだ、俺達は…悪くない、悪くないんだ!』

『あの下賤な女の子どもが全ての元凶なのです! 私達は嵌められたのよ!』

『我々に罪はない!』


スライムが分裂して、6つの弱々しいオーブになる。

オーブはそれぞれ自分は無実だ、非はアグリアにあると騒ぎだてる。



 ダァン、ダンダンダンダン


「黙れ…卑怯者共」


5体のオーブの本体スレスレを何十発も撃ち込む。

ジュードはぞっ…と背筋が凍り、ニルスは息を飲みこむ。

カナンの表情は周りを凍てつかせるほど、冷酷なものへ豹変していた。

…いつもの明るく笑う彼女の姿からは想像できない。


強烈な殺気を浴びて5体のオーブは一気に沈黙した…徐々にその姿は生前の人間時へ変化していく。

人間の頃の姿へ戻っても…5人は腰を抜かしたように小刻みに震えていた。

まるまると太った男と女二人、細身の男と中背中肉の男。

着ている身なりから、身分が高い貴族だというのが解る。


しかし、ジュードとニルスは同情しなかった。

先程の攻撃的な魔物であった事を含め、アグリアや彼女の母親、自分達さえも見下している態度。

さらに、他人ばかり責めて、自己の行いに非がないと喚く自己中心的な発言。

その癖、自己保身のために逃げ腰になっている姿を見て、逆に不快感が込み上げてくる。


「何が罪がない? アグリアが悪い? そもそもの原因をつくったのは貴様等自身だろうが…あぁ!?」

「ひっ…!?」「あああっ…うっあ…」


ダンッと地面を強く蹴って、鋭い眼光で彼等を睨みつけるカナン。

彼女をここまで非情にさせるもの…その原因が彼等にあるのは、他者の目から見ても明白である。



「六家(りくけ)の末裔である事を棚に上げて、貴様等はどのくらいの民の人生を踏みにじった?

己の地位に固執して、民を虐げてただけだろ。

本来の貴族の役割すらまともにしない貴様らみたいなのが、貴族の品位を下げてんだよ…愚か者どもがッ!」



その言葉を聞いた瞬間、ジュードの脳裏にカラハ・シャールの大貴族、クレインとドロッセルがよぎった。

彼等は領地の民だけでなく、国の人々全員の行く末を案じていた。


同じ六家であるのに、此処まで真逆な体質なのか…

いや、シャール家をこの人達と比べる事自体、クレイン達に失礼な事だ。

と思いながら、地べたに這いつくばる惨めな者達に、ジュードは嫌悪感を抱く。


「カナン、そのくらいにしておけ」

「黙ってて、アンジール」


「気持ちは解る…だが、こんな奴らに説教する価値すらないだろう」


傍観していたアンジールは辛辣な言葉を発すると、腰を抜かしているオーブ達に目を向ける。

その眼差しは、明らかに憐れな者をみる冷やかなものだ。



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