第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり


陛下が、なんでカナンに好意を抱く様になったのか…

全部じゃないけど、解った気がする。


あいつのどこまでも、前向きな性格が…

理想を現実にしようともがきまくるその姿が…

闇に沈みこんだ「心」に光をもたらすからだ。


ああ…今だから認めるよ。

あたしは、カナンを嫌いになれなかった。

憎み切れなかった…。

だって、あいつは…過去に存在を否定されて、家畜扱いされて、傷つきまくったあたしの【心】を癒していったから。



『…貴女は自ら身を引くのか―――愛する人のために』



だからこそ…あの広間で、あいつが狐男と喋っていた事を信じたくなかった。

あいつが国と民を守るために、陛下の為に去ろうとしていたってのは、十分解っていた。


けどな…カナン。

そんな自己犠牲みたいな真似する事で、傷つく奴だっているんだ。

あたしの母さんがそうだったように…。

母さんはな、あたしを本家の苛めから必死に守っていた。

父さんが融通が利かない以上、まだ力のなかったあたしを身を呈して防波堤になったんだ。

それに気付いたのは…母さんがいなくなった後。

自分と引き換えに子どもを守ったとしても、それで取り残された子どもが喜ぶと思う筈ねえだろ。


陛下が言ってたよ。

【エクレシア】ってのは、神様の間でもすっげー複雑な立場にあるんだって。


未だに、エクレシアに偏見を持って警戒したり、異端者扱いされる事もあるって。

世界を守ってんのに見返りもなくて、手柄たてたとしても、評価されない事も少なくないって。

その癖、評価しない世界と統治している上の奴らは、エクレシアが命かけてやってんのに非協力的だっていうんだ。くそくらえにも程がある…。



他の奴ら―――お前を連れ戻した職人気質っぽい傭兵のおっさんと、目撃してないけど、あたしと年がさほど変わらないお団子頭のちび女が自分等の境遇をどう思ってんのかは見当つかないからさておいて、いくら図太い精神のお前でも神経すり減らしていくのは目に見えている。

だから…陛下は、お前と他のエクレシアの連中の居場所をつくろうとしてるんだ。


陛下が…お前を強引に口説いたって事はババアから聞いたよ。

その点に関しては、陛下に非がある。

…そんな事があっても、お前は「陛下を愛している」と言った。

陛下も、ずっとお前に思いを寄せていた。

互いに両想いなのに…どうしてこんな事になっちまうんだ。


許せなかった。

好きな癖に陛下の思いを知っても、拒んだ事が…。

折角、打ち解け合えそうな奴に出会えたのに…その事言う前に帰っちまった事が…。


『信じてるわ、アグリア』


まるで、陛下の気持ちが本物かを試すように、あたしに自分の切った髪を手渡した事が…腹立たしかった!


でも、カナンはあたしを信頼していた。

あのメッセージを陛下に渡してくれるって、信じているって…期待されて嬉しかった。



イル・ファンで、カナンを目撃した時、二年前に逃げた事を思い出してはらわたが煮えくりかえったけど…内心はチャンスだと思った。

あの時言った事が本当なら、カナンは『ヴァンス』の野郎を倒すまで、リーゼ・マクシアにいる。

あたしは、ちゃんとメッセージは届けてやったんだ。

今度は、そっちが要求通りにするのが筋ってもんだ。

陛下が、あのメッセージの意味を解いていようとそうでなかろうと関係ない。

仮に、カナンが拒んでも、首に縄つけて引っ張ってでもア・ジュールに連れていくつもりだった。


まさか…採掘所であたしを庇うなんて思いもよらなかった。

倒れて意識がなくなったカナンを見た瞬間、母さんが自殺した時と重なり合った。

どうして、あたしの前からいなくなってしまうんだ。

母さんも…カナンも…。


もう、何も失いたくないのに…。



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