第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり


陛下が12歳の頃、一つの転機が訪れた。


―――《ファイザバード会戦》


20年前に起こったア・ジュールとラ・シュガルの大きな戦争だ。

ロンダウ族の一部隊として、陛下を含めた部族も戦っていた。

陛下は、抜きんでた才能と戦術でラ・シュガルを…あの指揮者(コンダクター)イルベルトさえも翻弄したのだ。

このままいけば、一気にラ・シュガルの懐に攻め込める…てところで悲劇が起きた。


霊勢が安定しているはずのファイザバードの荒野が突如、大津波に襲われたんだ。

両軍とも、大打撃さ…失った兵士はかなりの数だ。

多くの部族が家族をなくした―――それは陛下も例外ではなかった。

アウトウェイ部族は、陛下を除いて全滅した。

一人取り残された陛下は…多くの戦死者が横たわる泥と塩水にまみれた荒野で意識を失った。




陛下は津波がくる事を予期していた。

繰り返し、軍の上層部に進言したんだ。

でも、指揮していたロンダウ族の上官は取り合わなかった。まるで小馬鹿にしたような言葉で罵られて忠告を無視された。

その結果がこのざまだ。

誰も見当つかないだろうし…ましてや、予測できねえ災害に出食わすなんて、夢にも思わなかっただろうな。


陛下は心底絶望した。

大小あれど差別に耐えてきた…。

族長である父、妹…家族のために、部族全体の安寧のために…自分のプライドのために、胸をかき乱すどす黒い負の感情を抑えこんできた。

でも、ぷつりと糸が切れてしまった。


“何もかも失った”

“すべて無駄だった”


非情な現実を突きつけられ、陛下の心は崩壊寸前に陥った。

憤る事もなく、泣く事もできず…生きる気力も失って、もうまっ白な廃人になりそうな勢いだった。

その瞬間、陛下を取り巻く風景がガラリと一変する。


◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇


陛下が目覚めたのは、薄暗いだだっ広いどこかの研究所だ。

きつい薬品の匂いと、壁や床にこびりついた血の痕。

だんだん目が慣れてきて、その視界に映ったものに…陛下は驚愕した。

拘束具に繋がれたり、手術台の上に冷たくなった「人」だったもの。

嫌でも理解せずにはいられない、ここで凄惨な人体実験が行われたんだと…。


「さて…とっととはいてもらいましょうか」


耳元に聴こえてきた女の声。

声がした方向へ振り向けば、そこにいたのはうさぎの仮面をつけた白衣の女…カナンの師匠の一人がいた。


「お前らに合成魔獣(キメラ)の製造方法を教えた人物は……あのネクロマンサーか?」


うさぎ女は、白衣をきた研究員の胸倉を掴んで脅していた。その男は恐怖で顔面真っ青で、我が身かわいさにべらべら白状した。

それを聞いたうさぎ女は「ビンゴ…」と淡々とした口調で呟くと、研究員の男をぶんっと放り投げた。

壁に激突したそいつはぐったりして白目剥いてたらしい。


 ダァン ダンダン


何か弾けた音が響いた。

うさぎ女は、チッと舌打ちすると駆け足でその部屋からでていった。

陛下はゆっくり立ち上がると、そいつが向かった方へ一直線に走りだした。

陛下はざわざわと胸騒ぎが収まらなかった。


『あの仮面の女性がいると言う事は、カナンも近くにいるのだと思った。……案の定、彼女はいた』


そう…行き着いた先で、陛下は見てしまった―――


「……ぐっ…嘘だ。この私が…」


眼鏡をかけた術師らしき男が、横腹を手で押さえている姿…。


「エクレシアでない…ただの少女に後れをとるなど…!?」


そして……

その男を驚愕させ、戦慄させているのが、飛び道具をもったカナンだった。




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