第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり
【貴族】の連中は、身分や格を一番だと平然と言いのける自己中心的な集団だ。
身分が低い、平民ってだけで犬畜生に劣る扱いをしやがる。
中にはまともな奴もいるみたいだが、平民の税金で生活してるのが当たり前、贅沢な暮らしに胡坐をかいているのが大半だ。
ア・ジュールでも、前国王時代はそういった反吐が出る奴らがうろちょろしてたが、今では大部分の貴族の権力は削がれている。
けど、甘い汁を啜れなくなった生き残り共は、ここぞとごますりをしてくる。
陛下が独身なのをいいことに、自分の娘や親戚筋の女を紹介して縁談を持ちかけてきやがる。
勿論、陛下はそんな連中の申し出は一蹴する。
でも、中には陛下自身にぞっこんになって、猛烈にアタックしてくる女も少なくない。
なにせ、ア・ジュールを統一した英雄で、王者の気品と風格に溢れる美丈夫だ。メロメロにならない方がおかしい。
そんで、その積極的な連中ってのも身分を笠にしてお高くとまっているお嬢様が定番さ。
この間なんか、そんな典型的なご息女が城の廊下で歩いていて、すれ違いざまになんて言ったと思う?
「身なりには注意してもらいたいわ。陛下と“私の”品位に関わるじゃない」といちゃもんつけてきやがった。
あほらし、部外者の分際で…もう妃気取りかよって内心毒づいたね。
こんな奴が、国母になっちまったらそれこそ、ア・ジュールは破滅するだろ。
けど、そんな御令嬢らの燃える様な恋心も野望も、ある事で脆くも打ち砕かれた。
何故なら、陛下がカナンを正妃に迎え入れると正式に宣言したからだ。
そりゃ、目が飛び出る位驚いたよ。
あたしだけじゃない、ババアもジャオも…城中が大パニックだ。
その時…あたしは既視感を覚える。
ああ、そうだ。この状況は…と脳裏に記憶がよみがえる。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
あたしの母さんは、田舎町の酒場で歌手をしていた。
母さんの美貌と人となりに惚れ込んだ、父さんはラ・シュガルの名門貴族のトラヴィス家の領主様だった。
妾の子として生まれたけど、父さんはあたしと母さんを愛してくれた。
父さんは人を愛する事が今一つ解らなかったんだろうな。
正妻と四人の子どもがいたけど、そこに【家族愛】の欠片も感じていなかったらしい。
貴族特有の堅苦しい柵に辟易していたのもあって、母さんと出逢って、本当の【愛】を知ったんだと漏らしていた。
でも、父さんは母さんと離れて暮らす生活に我慢できなくなって、あたしと母さんを自分の領地に招き入れた。
本家の隣の屋敷に住まわすなんて、正気の沙汰じゃねえだろ。
しかも、私生児のあたしを《次女》として認知しちまった。これがきっかけで、傍観決め込んでた本家はとうとう牙をむけたんだ。
そこからが、あたしの壮絶な人生の幕開けだ。
「妾腹の分際で、トラヴィスに取り入れるなんて、なんて浅ましい」
正妻のロベルタは、汚物を見る目であたしと母さんを目の敵にした。
あたしを視界に入れるたびに、罵倒を飛ばしてきた。
「馬にも劣る貴様らを、我々が受け入れることなど到底あり得んと思え」
「お前達は人でないし、人でない者に僕は話しかけるつもりはない」
「インバイの娘の癖に、生意気なんだよ!」
「鼻もちならない女の娘なんかに、こんな綺麗な服、もったいないでしょ」
長男のオーリニャック、二男のグラヴェット、三男のセレドニオ、長女のマグダレーナ…。
腹違いの兄姉も、じわじわとあたしと母さんをいたぶり、凄惨な苛めをし続けた。
何度も、もとの家に帰りたいと思った。
質素だけど、母さんと使用人のばあさんとプランと幸せな時間を過ごしたあの家に…。
けれども、父さんはそれを許さなかった。
あたしらが本家に虐待されているのに…自分の我儘を貫きとおしたんだ。
「母さんが父さんの支えなんだよ。お願いだ…ナディア」
“我慢してくれ”
もうダメだ…と思った。
あたしと母さんは、完全に鳥籠に閉じ込められた哀れな観賞用の鳥になったんだ。
そして…11になった時。
「か…あ…さん…」
身も心もボロボロになった母さんは首をつって自殺した。
「いや…いやぁああああ!!」
あたしの心の拠り所は…完全に世界から消えてしまった。
それから、あたしは家出した。
母さんを亡くした事で、生きる屍となった父さん。もう何も後ろ盾もない。
いやがらせも、さらにエスカレートしていった。
腹違いの兄姉に加えて、プランを除いた使用人達も、あたしを徹底的に追い詰めた。
ロベルタのババア達に支配されたあの屋敷にいたら、あたしは殺される…命からがら逃げた。
路地裏で極貧生活をしながら、あたしは母さんが自殺した理由を知ったんだ。
あいつらは、偽の遺言書や偽造登録簿をつくって、母さんが金目当てに父さんに近づいたって証拠をでっちあげた。
母さんが裏で闇医者とつるんで、父さんに毒薬を盛ろうとしたって、偽の陰謀までつくって「極悪女」のレッテルを張ったんだ。
あいつら…本家の奴らに嵌められたんだ。
怒りと絶望…そして、あたしの中に貴族に対する憎悪が生まれた。
“ 貴族を血祭りにしてやる ”
溢れだす憎悪が、あたしに精霊術の素養を開花させた。
貴族と名のつく奴らを片っ端から殺していった。それでも、あたしの憎悪の火は燃え上がっていく。
そういったあたしに目をつけたのが…ミンク、当時のプレザのババア。
ババアは、あたしに復讐の機会を与えてやるって誘ったんだ。
あたしは、トラヴィスの連中に地獄を見せるために、ババアのもとで訓練を受けた。
そして…敵国ア・ジュールのスパイとなった。
反省したふりをして、屋敷に戻ってコネでラ・フォート研究所に潜入調査した。
ラ・シュガルの機密情報を奪い取って、ア・ジュールへ提供してやったさ。
ラ・シュガル…生まれ故郷だが、トラヴィスの様な腐った奴らが支配する国に未練なんてこれっぽっちもない。
あんな国、潰れてア・ジュールに吸収されちまえばいいんだ。
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