第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり


ミラは不思議な感覚に囚われていた。

ジュードとレイアが魔物に襲われそうになった時…突如、現れた白いコートを見に纏う謎の人物。

栗色の長い髪、澄みきった青空を連想させる瞳。

年齢は、自分と同じくらいだが、少女と大人の女性を狭間にいる感じだ。

しかし、彼女に抱いた印象は嫌悪ではなかった、むしろ逆だ。

彼女を纏う清廉で…包容力のある空気が、ミラの心に今までにない感情をもたらした。


「リエリーン! あいたかったよォオオオ!」


デミックスは涙腺が崩壊したのか、どば~と目から滝が流れている。

リエ…リン?

それが、女性の名前だろうか…。


女性…もとい、リエは先端が星の形をした長杖を片手に、魔物と対峙する。

新たな獲物と判断したのか、魔物は咆哮して前脚を勢いよく振り下ろそうとした。


「「「危ない!」」」


ミラ、ジュード、レイアの声が重なる。

そんな三人とは正反対に、デミックスは落ち着いた顔だ。

車椅子の肘あてに力を入れて、落ちそうな感じのミラに視線を向けてこう言った。


「そんなに騒がなくても大丈夫って」

「なに…?」

「だって、リエリンは…」


 ギシャァアアアア


デミックスの言葉を遮る様に、魔物の叫び声が響き渡る。

パッとその方向をみると、ミラは己の目を疑った。

視界に映ったのは、魔物の胴体に横に一閃が走り、リエは背後で血を拭いとるように杖を地へ振り払う仕草をしていた。

魔物は血飛沫をあげる前に胴体が粉々になり、その肉体をなしていた欠片は、中央の大きな穴へと吸い込まれるように落ちていった。


「はやい…!」

「全然見えなかった…」


ジュードとレイアの言葉に素直に同意するしかない。

ミラも、目で追う事ができなかった。

そう…秒単位ともいえるその刹那の時間で、リエは魔物を瞬殺した。


「ほーらな、リエリンは強いんだよ!」


あたかも、自分の事のようにデミックスは誇らしげに言う。

その通りだ…“強い”

あまりの強さに、言葉を発するのを戸惑っていると、リエは大きな穴を覗くように視線をおろす。

そして、腰を屈めて両手を合わせると祈る姿勢をとる。


「やすらかにお眠りください」


魔物への弔いの言葉を呟くと、リエはジュードとレイアのもとへ歩み寄る。


「大丈夫ですか?」

「えっと…ありがとうございます」

「おかげで…助かりました」


リエは、ちょっとごめんなさいと呟いてジュードの背中に手を翳す。

手から淡い白い光がでて、背中にできた擦り傷と打身を癒した。


「如何ですか?」

「っ! うそ…」


ジュードは思わず手で背中を擦って確認する。

レイアの前では平全を装っていたが、壁に激突した時に自分の見立てでは骨にヒビが入っていた。

しかし、先程の不思議な術(おそらく回復術)を受けた影響か、痛みがなくなった。


「骨には、もう異常はありませんよ」


あたかも、予期したかの如く、リエはジュードにそう言った。

ジュードは、驚愕した顔で彼女に視線を向ける。

えっ、どういうこと? とレイアがジュードとリエを交互に見る。

リエは穏やかに微笑み返すと、二人から離れた。


「リエりん!」

「デミックスさん、お久しぶりです」


デミックスはぐすっ…と「無事でよかった~」と言いながら、腕で目元を擦る。

ふと、彼が握りしめている六角形の宝石に目がいくリエ。


「ご無事で…何よりです」


「えっ? もしかして一発で『こいつ』が分かっちゃった? うん、これどっからどうみてもキラキラな宝石にしかみえないけど、《あの人》なんだよ!

ガタイが良くてムキムキなおっさんがこうなるなんて、マジで想像つかねーしさ。それに…」


《デミックス…少し黙ってくれ》


アンジールが会話を遮った。

デミックスが一度話しだすと、収拾がつかなくなると判断したのだろう。


「すみません…ご迷惑をおかけしました」

《いや、貴方の無事が確認できて何よりだ》


謝罪するリエに、アンジールは「再会できてよかった」と言葉を返す。

彼等の様子を、ミラはなんともいえない表情を浮かべていた。

まあ、端から見れば、宝石に話しかけるなんて何考えてるんだ…この人は、と奇異な目でみられても仕方ないのだけれど。

こちらに気付いたのか、リエはミラへ視線を映すと彼女の方へ近づいていく。


「お初にお目にかかります。ミラさん」

「…なぜ、私の名前を?」

「“とある方”から、貴方の事をお聞きました。出逢って早々、すみませんが…単刀直入に言います。早く此処から逃げてください」

「にげる…?」


何故だ、と問いかけようとしたその時。

彼女の問いを邪魔するように、空間が歪み、その狭間から黒い“生き物”が現れた。



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