第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり


ギリギリと鍔迫り合いが続くが、カナンは力を込めて、アグリアを弾き飛ばす。

飛ばされる中、アグリアは態勢を変えて壁際の岩肌を蹴ると、スピードをつけて再び、カナンに斬撃を仕掛ける。



 キンッ、キン、キン!


「…はぁはぁはぁ」

「アグリア、なんで此処にいるの?」

「…ハッ、あたしが素直に教えると思うか?」

「……それもそうね」


息切れしつつも、意地悪く笑うアグリアに、カナンは納得したように言う。

キンッと武器同士が離れると、カナンは一定の距離を置いたアグリアへ静かに目を向ける。


「変わってないわね」

「あったりまえだ! てめえがちんたら里帰りしている時も、こっちは陛下のために尽くしてたんだ!」

「…そう」


カナンは穏やかにそう呟いた。

それが気に入らないのか、アグリアはチッと忌々しげに舌打ちする。


「むかつく…お前のそういう全てを悟りましたっていう偽善者じみた所が嫌いだ。そのすかした面をぐちゃぐちゃにしてやりてぇよ!」

「アグリア、いい加減にしないか!」


罵倒を繰り返すアグリアに対し、ニルスが会話に割り込んできた。


「君の任務は、あの黒コートの男を捕える事だろう。任務に私怨を挟んで、あろうも事か、未来の王妃を傷つけるつもりか?

それが如何に愚かな事なのか、理解できないはずはないだろう!」


ニルスが半ば激昂する形でそう叫ぶ。

何時になく感情的なニルスを横目でみて、アグリアは嘲笑う。


「ふーん、私怨を挟むな、か…。それそっくり返してやろうか? “ニルス”」

「何を…」

「あんたが、陛下に対して内心アンチな事考えてんの知ってるんだぜ。一族の地位や栄光を落とされたって恨んでる癖によ!」

「……っ!」


アグリアのその言葉に、ニルスの顔に動揺が走る。

そして、彼女の暴言に対し下唇を噛んで反論せずに視線をそらしてしまう。

カナンは、なんともいえない表情でニルスとアグリアを交互に見る。

ニルスが、ア・ジュール側に属する人間…。

それだけでも驚きだが、それ以上にアグリアが言った事が気になる。


「ハッ、図星ってか。言っておくがな…陛下に傷一つつけてみろ。あたしが容赦しねぇからな」


釘をさす言葉を言い放ち、ギロッと睨みを利かせると、アグリアは剣呑な視線をデミックスへ向ける。

ひっ…と小さく叫んで震えるデミックス。

だが、怯える彼にさして興味を示さず、ふんと鼻で笑うと、その視線をカナンへ戻す。


「ハッ、殺すつもりはねぇよ。ただ…陛下を悲しませた分、ぼこぼこにしてやるからな!」

「…殺す気はない…か」


仕込杖を構えるアグリアに、カナンは聞こえないように小さく呟いた。

上空に飛び上がり、上段に振りかぶった武器をカナン目掛けて振り下ろそうとする。

バックステップして、カナンはその一撃を回避する。

裂け目ができた地面から、仕込杖を抜くと、アグリアはすかさず詠唱しようとした。


 バァァアアン


その時、大きな爆発音が鳴り響き、地面がぐらぐらと振動する。


「な、なんだ…!?」

「これは…!?」


「ぎゃあああ、でたぁあああ!?」


デミックスの何度目かの叫び声で、戦闘を中断したその場にいた面々の視界はそちらへ向く。


「そんな、あの魔物はさっき倒したはず…」


信じられない面持ちでニルスが言葉を漏らす。

先に倒したはずのミミズの魔物が復活していた。

いや…違う。葬り去った魔物ではない。

今、動いている魔物は胸の部分に精霊の化石が埋め込まれている。

注意深く観察すれば、体格もさっきのよりも大きい。


「二匹いたんだ…」


導き出される答えは、魔物は単独ではなく、“複数”いた。


 ぶぉおおおおお!


魔物の口から震える咆哮が漏れる。

地面が蠢くように揺れ動き、先のモノよりも多い岩が降り注いできた。


「! 危ない!?」


アグリアの身体を易々と埋められそうな巨大な岩が落下してきた。

カナンは、彼女の身体を抱えて横とびして難を逃れるが、岩壁に背中をぶつけてしまう。

その際に身につけていた小物袋がとれた。


「ッ……アン…ジール…」


小物袋から、アンジールの輝石が零れ落ち、からんからんと地へ転がる。

背中を襲う激痛により、身動きが取れない。


「…な、なんで…」


アグリアは動揺している。

剣呑な表情が、困惑に彩られている。


「……無事で、よかった…」


口元を緩めてそう言うと、カナンの意識はだんだん薄らいでいく。

遠のく意識の中、ニルスとデミックスが何か叫んでいるのが視界に映るが…その詳細を確認する事はできなかった。



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