第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり
数時間かけて、船はル・ロンドの海停へ到着した。
「…変わってないな」
着くや、ジュードがポツリと呟いた。
タリム医学校に入学してから二年。
卒業する前では戻らないと決めていたので、こういう形で帰省する事となるとは…。
久しぶりの故郷に、ホッとする半面後ろめたい気持ちが否めない。
「綺麗な空…」
空を見上げて、カナンは感嘆の息を漏らす。
ル・ロンドはラ・シュガルの北東部にあり、位置的に夜域の終わりにあるため、霊勢の影響で朝の青空と夜の星空が交わっている。
不思議で…どこか幻想的な風景にカナンは見惚れてしまう。
「絶景だろ」
立ち止まっていると、アルヴィンが笑いながら隣へやってきた。
「俺も初めて来た時、目が釘付けになったんだ。あまりにも綺麗だから、ずっと上見てて途中で躓いて転んじまったっけ…」
「そうなの…でも、分かる気がする」
アルヴィンの言葉に、カナンは同意するように頷く。
二人が話している間、ジュードはゆっくりと松葉杖をつくミラを慎重に誘導させていた。
「ミラ、そこ段差があるから気をつけて」
「ああ」
「さぁ、まだまだだよ!行けー!」
すると、遠くから少女の掛け声が聞こえてきた。
声のする方へ視線を向けると、車椅子に乗った少女が、年下の少年に押してもらいながら、スピードを出して進んでくる。
「あっ、人がいる!」
車椅子と並走していたもう一人の少女が、カナン達に気付いて叫んだ。
車椅子に乗っている少女は、やば…という顔になり、大きな声を出す。
「きゃー! どいてどいてー! えっ、ジュード…?」
少女は、ジュードと視線がかち合うや、目を見開いて彼の名を口にした。
押していた少年は手を放したが、速度のついた車椅子は止まる気配はない。
「うーそーっ!」
少女は車椅子と共に海へまっしぐら。
ぴょんぴょんと水面をはねていき、盛大な着水音を発して、沈んでしまった。
「誰…知り合い?」
「…うん、僕の幼馴染」
アルヴィンからの問いに、ジュードは乾いた笑みで答えた。
「あの子…大丈夫かしら、あっ…!」
カナンが心配そうに海を眺めていると、沈んだはずの少女がクロールをして岸へ向かう姿を見つけた。
「ふむ…どうやら私達の手を貸す必要はなさそうだな」
ミラのその言葉通り、少女は全身ずぶ濡れになりながらも、陸へあがってきた。
「はぁ…はぁ…ごめんなさい。大丈夫でしたか?」
少女は少し息切れしつつ、カナン達に謝罪をした。
肩まで切りそろえた明るい茶色の髪。
緑色の瞳をした溌剌とした印象の少女だ。
「私達は平気だけど…貴女の方が大変よ。はい、タオル」
カナンは、荷物袋からタオルを出して、少女の髪を拭いてあげる。
す、すみませんと少し赤面して苦笑いする少女。
「レイア…ただいま」
ジュードが近づいて少女に声をかけた。
少女…レイアはハッと呼ばれた方へ目を向けて、ジュードを凝視した。
「ジュード…やっぱりジュードだ。でも、なんで? ジュードはイル・ファンの医学校にいるはずなのに…!?」
「レイアこそ…一体何やってたの?」
驚くレイアに、ジュードは先程の車椅子レース(?)の事を尋ねた。
レイアは気まずそうな笑みで、両手をバタバタと動かす。
「あ、あれはっ、この子達がかけっこで競争したいって言うから、私を押してハンデつけないと勝負にならないって思って…」
「俺は、嬢ちゃんが一番楽しんでたようにみえたけど…」
腕を組んだアルヴィンが、さらりと指摘するとレイアはうっ…と言葉を詰まらせる。
「今回は無事だったからいいけど…さっきの遊びはやめなさい。下手をしたら命がいくつあっても足りないわよ」
カナンは、ぽんぽんっとレイアの背中を軽く叩いて言った。
真剣な表情で注意されて、レイアは顔を俯けて「はい…」としょんぼりした声で言った。
「レイア、帰ってきて早々なんだけど、新しい車椅子を持ってきてくれる?」
「えっ、車椅子を…?」
「うん。この人…ミラを家に連れて行きたいんだ」
「……えっ、ちょっと、彼女の足!」
ジュードが、ミラの肩を支えて彼女を紹介する。
レイアは、彼女の包帯が巻かれた両足で松葉杖を片手にもっている姿を見て、即座に只事でないと察したようだ。
「新しい車椅子を至急用意して。あと、大先生に救急患者が来るって連絡!」
「ら、らじゃー!」「りょうかい!」
レイアは、顔を引き締めて遊んでいた少年と少女に指示する。
二人はすぐさま市街地へ駆け出して行った。
「少し待っててね。新しい車椅子からきたらすぐに診療所へ案内するから」
「…ああ、感謝する」
レイアの言葉に、ミラは口元を緩めて御礼を言った。
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