第6章:【青空と夜空の街】に残された手掛かり
数時間経過した。
サマンガン海停まで、まだまだ時間がかかりそうだ。
理由は、馬を怖がらせないように、慎重に移動させなければならないため。
通っている街道は障害が少ないけれども、魔物が襲いかかってくる事もある。
そのため、近づいてくる魔物をカナンとアルヴィンが蹴散らしていき、ジュードは手綱をひいて、馬と乗っているミラを避難させる。
「カナン、援護任せたぞ!」
「了解!」
アルヴィンが大剣を振るい、突進してくる猪…ボアを一線した。
その彼の背後に忍びよる、上空から鋭い爪を立てて牙をむいてくるホーク。
しかし、爪をつきたてる前に、カナンが放った弾丸により…地面へひれ伏す事となる。
そんな二人の戦う姿を、ミラは馬の上から静かに見つめていた。
「…護られる立場とは、こういう気持ちなのか」
「ミラ…?」
ジュードが、顔を覗き込むように見上げると、ミラは緩慢に左右に振って「いや、なんでもない」と言った。
少しずつ道を進んでいき、街道の半ばに差し掛かった頃だ。
澄み切った青空に、灰色の雲が広がっていき、ぽつりぽつりとにわか雨が降ってきた。
「雨が降ってきちゃった。今日はここで休もう」
「あそこの岩影で雨宿りできそうだ」
ジュードとアルヴィンの提案に、ミラとカナンは首を縦に振った。
馬を木の所へ繋ぐと、カナンはミラを地面へ座らせた。
アルヴィンが寝床を整えて、焚き火用の木を集めていき、ジュードは夕食の準備をした。
「簡単なものしかつくれなかったけど、どうぞ」
献立は、こんがり焼いたベーコンとレタスのサンドイッチ、キノコと玉葱のクリームスープだ。
勢いを増す雨で気温が下がる中、スープのおかげで身体が温まっていく。
「…ジュードの料理はやはりおいしいな。私には到底、真似できない」
「そんな事無いよ…練習すれば誰でもできるって」
ジュードは謙遜するが、ミラに褒められたのが嬉しいのか、満更でもない顔だ。
「おーい、優等生。顔にでてるぞー」
「えっ、うそ…」
アルヴィンに茶化されて、ジュードは咄嗟に頬を手で撫でて慌てている。
そんな彼の様子に、カナンはミラと一緒にクスッと笑ってしまう。
夕食を食べ終えた後、ジュードはアルヴィンにある事を尋ねた。
「ねぇ、アルヴィン…いいかな?」
「ん? どうした」
「アルヴィンが知っている名医の話なんだけど…」
ジュードが言おうとしているのは、これから、会いに行く医師に関する話題だ。
「その名医って…ディラック先生の事だよね」
「ああ、そうだ」
アルヴィンが肯定すると、ジュードはやっぱり…と答えを予測していたのか、小さく息を吐く。
「その先生と、ジュード君は知り合いなの?」
「…僕の父です」
返ってきた言葉に、カナンは驚いた。
「それじゃあ、アルヴィンさんは知ってたの? ジュード君とお父さんの事…」
「【マティス】って名字は珍しいから、まさか…とは思ったんだ。こいつから実家の話聞いたら、案の定当たってた」
船で出逢った時に名前を聞いてから、彼は薄々知人の子どもじゃないかと感じていたみたいだ。
「世間は広いようで狭いな。親の知人と息子が旅を共にしているのだから」
ミラの率直な感想に、カナンも思わず頷く。
「先生には、ル・ロンドに住んでた頃に世話になったんだ。おふくろが風邪こじらせた時も時間に関係なく診てくれたりして、ね」
「そうだったんだ…」
ジュードは感慨深そうに彼を見つめる。
「アルヴィンには、母親がいるのだな」
「ああ、親父が船の事故で幼い頃になくなってさ…。それ以来、仕事切り盛りして俺を育ててくれた」
揺らめく炎を見ながら、アルヴィンが自分の身の上話を語った。
「他にご家族はいないの?」
「叔父が一人いる…けど、そいつとは反りが合わなくてね。遠い故郷に仲の良い従兄がいるけど、元気にしてるかな…」
雨がやんで、黄昏色から暗闇に移りつつある空を見上げるアルヴィン。
彼の口調が、懐かしげに…どこか切なさを帯びているように思った。
「アルヴィンの故郷って、そんなに遠いの?」
「めちゃくちゃな…帰りたいけど、すぐに帰られない程にな」
「なるほど…手を貸せる事があれば、言ってくれて構わないぞ」
足の治療が済んだらだが…というミラの申し出に、アルヴィンは驚いた顔になった。
「おたくからそんな言葉を言われるとはな…」
「なんだ? その驚きようは…」
ミラは不思議そうにアルヴィンに言葉を返す。
ミラ本人は気付いていないようだ。
今までは、使命を優先して「感傷的になっても仕方ない」と言いきっていたのに、他人のために心配りをしている。
カナンは、敢えて口にしなかったが、彼女の変化を喜んでいた。
その変化が、ミラの視野を広くして心の豊かさにつながると。
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