第5章:行く手を阻むモノ


「ミラの事? どう思うって…」


「爆発する拘束具つけてたのに、そのまま突っ込んでいって自爆した。

使命のために自分の命を顧みないなんて、正気の沙汰じゃない」



カナンは、彼の言葉を批判できなかった。

ミラの今回の行動は、世界を統治する者としてあまりにも猪突猛進すぎると思う。



「うん、普通の人から見たら異常にみえるかもしれないわね…。

でも、ミラはそうやって生きてきたのよ」



誰よりも人と精霊を守りたいという意志

―――そのために、人としての身体を造り、20年もの間影で世界を支えていた。


ミラの無茶ぶりを賛同する事はできない。

だからといって、彼女のすべてを否定しない。


彼女の使命に対する情熱と、世界を愛する思い

―――自分の中にも、彼女と通じるものがあるから。



「だから…私は、そんなミラが無茶をしない様にストッパーの役割になれたらって思う」

「っていうか…あんたも人の事言えないと思うけど」

「…あはは、確かにね」



アルヴィンが呆れたように言うと、カナンは苦笑する。



「アルヴィンさんは…どうするの?

これ以上ついていきたくないなら、無理しなくていいのよ」


「はぁ…今更同じ事訊く?」



アルヴィンは、軽くため息を漏らして肩を竦める。


「そう…それならよかった」


先に行くね、と笑いながら言うカナン。

自分の後ろ姿を、アルヴィンが意味深気な目で見つめているとは知らずに。


数日後、カラハ・シャールの中央広場にカナン達はいた。

クレインとドロッセルに頼んで、ミラを乗せる馬を手配してもらった。


「クレイン、ドロッセル、感謝する」

「いいえ、皆さんも道中お気をつけてください」

「上手くいく事を祈っているわ」


三人が話している傍ら、カナンは腰を屈めてエリーゼと目線を合わせていた。



「私も…行きたいです」

『つれてってよ~』


「エリーゼ…二日前に話しあったでしょう。

ドロッセルとなら一緒に暮らしていけるって言ったの、忘れちゃった?」



エリーゼは、ドロッセルに自分の身の上を話していた。

その経緯を知ったクレインが、彼女を「養子」として迎え入れると言ってくれたのだ。

ガンダラ要塞での一件から、エリーゼとティポをこれ以上、旅に連れていくのは避けた方がいいと思っていた所だ。

二日前に、エリーゼも交えて話し合いをした結果、彼女とは此処で別れる事となった。


「…でも、カナンさん…ミラ、ジュード…アルヴィンと別れたくない…です」

『さびしいよー』

「また時間があれば、此処に戻ってくるから、いい子にしててね」


よしよしと頭を撫でると、エリーゼは顔を俯けて「……はい」と悲しそうな声で返事した。


「ここまでのお見送りしかできず、本当に申し訳ありません…」


ローエンが申し訳なさそうに頭を下げる。


「ううん、ローエンはクレインさんとドロッセルさんを支えてあげて」

「じいさん、せいぜい腰痛めないように気をつけろよ」

「…はい、ありがとうございます」


二人の言葉を聞いて、ローエンは少し元気が出たのか、口元を緩めて感謝の言葉を言った。


「では行こう。色々世話になった」

「エリーゼを宜しくお願いします」


ローエン、クレイン、ドロッセル、エリーゼに向かって挨拶をすると、カナン達はカラハ・シャールから旅立って行った。





【治療法を求めて】





「……みんないっちゃった」


どんどんと遠くなる、親しくなった人達の背中を見つめながら、エリーゼは小さく呟いた。


『うう…みんなのはくじょうもの…僕とエリーをおいてっちゃうなんて』

「エリーゼさん、ティポさん、あなた方を思っての決断なのですよ」


ローエンが優しく諭すように言う。

エリーゼは、寂しさを紛らわせようとティポをぎゅっと抱きしめる。


「さて…新しい《家族》ができたんだ。お祝いをしないとね」

「料理長さんがね、美味しい御馳走とケーキをつくってくれるそうよ。早く帰りましょう」


クレインが気を利かせる事を言い、ドロッセルもエリーゼの手を繋いで微笑みかける。

エリーゼは、ゆっくりと顔をあげると少しぎこちなさを残した表情で「はい…」と頷く。


そんな彼等のやり取りを、少し離れた住宅の影から眺める一人の青年―――ニルスがいた。


「よかったね…エリーゼ」


少し残念そうに、けれども納得した顔で静かに呟く。


「今度、ジャオさんに伝えてあげないとな…」


きっと、あの人は解ってくれるだろう。

誰よりも、小さな少女の幸せを願っているのだから。


「でも、あの人は…【王妃】は必ず連れ戻さないといけない」


ニルスは、自分に言い聞かせるように言う。

けれども、対照的にその表情は浮かない。


“このまま彼女を連れ戻していいのだろうか…”

“それが彼女にとって幸せなのか”


そんな迷いが知らない内に芽生えていた。

すると、彼女―――カナンが花の様にふわりと笑う姿が脳裏をよぎった。


「……ッ! 何を考えているんだ…僕は」


ニルスは、迷いを打ち消すように首を左右に振ると、踵を返してその場を後にした。





《第6章へつづく》

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