第5章:行く手を阻むモノ


カラハ・シャールから出て、クラマ間道付近までやってきた。

人気がないのを見計らうと、ゼムナスはシグバールに目で合図をする。

シグバールは、闇の回廊を使用して姿を消した。


「こうやって、二人で対話をするのは久しいな」

「そういえば、そうね…」


以前、彼と話したのは半年前だ。

携帯で、最近の事を数十分話した程度。

とりたてて重要な話題は浮上しなかった。


「…さて、本題に入ろうか」


ゼムナスは、近くの木に背中を預けて腕を組む。


「カナン…君がこの世界にいる事情は、すべてマールーシャ達から聞いた」

「そう…」

「…深く聞きだすつもりはない。それは、君が解決すべき問題であり、我々が余計な手出しすべき事ではないからな」


ゼムナスの気遣いに、カナンは内心感謝した。

彼とはある事をきっかけに、話友達の関係となったのだが、プライベートな事を深く詮索しないのが彼の長所だ。

しかし……


「問題なのは―――我らが機関の№15、リエの行方が未だ分からない事だ」

「……………うん、そうだね」


真剣な表情でゼムナスは、さも当然の如く言った。

カナンは少し沈黙したが、一応同意の言葉を返した。


「リエ…一体どこにいるんだ。彼女が城に来なくなって大分経過しているのに…」


憂いのある表情で、ハァと溜息を洩らす。

此処で、普通の婦女子がゼムナスのその物憂げな姿をみれば、さぞかし胸がときめくはずだ。

―――彼の悩みの全貌を知らなければ。


「そして…もう一つの問題は、あの忌むべき男がこの世界に出現している事だ」


今度は、さも憎々しげに言葉を言い放つ。


「ああ、ヴァンスの事ね」

「名を耳にするだけで虫唾が走るが、その通りだ」


眉根を大きく寄せて、ハッキリと嫌悪感を露わにしている。

リエの時とは180度違う態度に、カナンは乾いた笑みを浮かべる。

ゼムナスの脳内の大半は、リエとヴァンスで占められているんじゃないか、と時々そう思う。

大抵、悩み相談されるのが二人の話題だから無理もない。


「…それで、二人の件で私に新しい情報が入ったか聞きにきたのね?」

「いや…今回は、君に“連絡したい”事があって呼び出したのだ」


どうやら、機関側が何か新しい情報を入手したようだ。


「ヴァンスが何かしらの原因で封印されており、ラ・シュガルのラ・フォート研究所に置かれている事は知っているだろう」

「ええ…」

「シオンからの報告を受けた後、後日、別のメンバーを調査に行かせた。だが…研究所に、あの男が封印された結晶石は消えていた」

「……!」


ゼムナスはさらに言葉を続ける。

結晶石だけでなく、それを守っていた者達も行方をくらましていた。

また、クルスニクの槍についても調べてみたが、研究所から跡形なく姿を消していた。


「結晶石と兵器の方は、別の場所へ移されたのだろう。それがどこなのかは今、調査中だ」

「…うーん、他の場所って、あの二つを隠せる大規模な所ってどこかあったかな? 首都以外のラ・シュガル領で推測すると…」


カナンは腕を組んで思案する。


「そう難しく考えなくてもいいのでは?」

「えっ…?」

「人とは、大事な物は自分の傍らにおきたがる習性がある…私はそう推測している」


ゼムナスが口端を吊りあげて言った言葉…。

カナンは目を瞬かせると、顎に手を押し当てて「…という事は」と呟いて、ある仮説を口にした。



「結晶石とクルスニクの槍は、イル・ファン内の…敵の居城にある可能性が高いわね」



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