第5章:行く手を阻むモノ


目覚めてから数日経過した。

カナンの体調は完全に回復した。

医師からは念のために、もう少し身体を休める様に言われたので、外出は控えている。

何もしないのも退屈だろうと、クレインが屋敷内は自由に使ってください、と許可してくれた。


「この本、面白いよ」


ジュードはさりげなく、街で購入してきた小説を持ってきてくれた。

ドロッセルとエリーゼも、ちょくちょく部屋にやってきて他愛もない話題を話してくれる。

そんな皆の心遣いが、カナンの心を穏やかにしてくれた。


一つ気掛かりがあるとすれば―――


「ミラ、足の調子はどう?」

「ああ、まだ痛むが右足は動かせるようになった…」


いつもの調子で語るミラ。

逆に、カナンは申し訳なさそうに目を伏せる。


「ごめんなさい。あの時、治癒術を続けていれば、左足も治せたのに…」

「謝らなくていい。君がいなければ…両足とも不自由になっていただろう」


ミラの左足は、あの爆発の所為で神経をやられてしまい、全く動かせなくなってしまった。

あの時、治癒術をもう少し継続していれば…毒を受けていなければ…後悔の念が募ってしまう。



「カナン。私は片足が不自由になろうと…前に進まねばならない。

力とは四大を操る事や自らの足で動くだけとは限らない。

大事なのは…何事も諦めない【意志】だ。そう思わないか?」



ミラが振ってきた事に、カナンは大きく頷く。



「…そうね。だったら、私は出来る限りハンデを背負ったミラのサポートをする。

貴女が無茶しないように見張らないとね」


「君が言える立場なのか?」



口元を綻ばせて逆に言い返されると、カナンは「それもそうね」と笑ってしまった。

さらに数日後、医師から外出許可が出たため、ドロッセルの提案により、街へ買い物に出かけた。

先の騒動でいきかう人が少なくなった様だが、以前と変わりなく、市場は活気にあふれていた。

ドロッセルとエリーゼ、松葉杖をつくミラを支えながらカナンは市場を回っていく。

露店が立ち並ぶ中、倒れていた自分を介抱してくれたニルスと再会した。


「あの時はありがとうございました」

「いえ…僕はあまりお役に立てませんでした」


ニルスは少し複雑そうな顔でそう言った。

しかし、カナンは緩慢に首を左右に振る。



「ニルスさんがつきっきりで看病をしてくれた事覗いました。

まだ知り合って間もないのに…私のために貴重な時間を割いてくれた事、嬉しかった」


「…カナンさん」



ニコリと微笑んで御礼を言うカナンに、ニルスは見入ってしまう。


「何かお勧めの商品はあります?」

「えっ…あ、ああ! そ、そうだな~。これなんかどうです?」

「…? ニルス、顔が赤みを帯びているが…風邪でも引いたのか?」


ミラが不思議そうに尋ねると、ニルスは「何でもありませんから!」と慌てた様子で言葉を返した。

そんな彼を見て、ドロッセルとエリーゼはクスクスと笑っていた。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「よっ、お嬢さん。元気になったみたいだな」


屋敷へ戻ると、思わぬ来客があった。

ガンダラ要塞で、イタチと戦った右目に眼帯をした強面の男性、シグバールと…ゼムナスがいた。


「ゼムナス。この間はありがとう…ところでどうしたの?」


この間、治療の薬を投与してくれた事に感謝の言葉を言うと、改めて何か用事があるのか聞いてみた。


「すまないが、来てもらえるか? 話したい事がある」

「私達の前では言えない事なのか?」


まるで庇う様に、ミラがカナンの前へと出ていき尋ねた。

あからさまに警戒感を露わにする彼女を目にして、まさか…とカナンは彼女とゼムナスを交互に見る。


「カナン一人だけを行かせるわけにはいかない。私も同席させてもらう」

「おやおや~、随分と嫌われちまったな。ゼムナス」


後ろに立つシグバールが茶々を入れる。


「申し訳ないが、それはできない話だ。これは、エクレシアと我々との間の問題なのでね」


ゼムナスは部下の言葉を気にする様子もなく、淡々と理由を話して、ミラの要求を断る。


「解った。ミラ、ちょっと行ってくるね」

「だが…」

「彼等は、私達の敵じゃないわ。安心して」


カナンの説得に、ミラは納得していないものの、渋々と送り出す事にした。



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