第5章:行く手を阻むモノ


イチかバチかの賭けでもあった。

賭け事は好きではないが、カナンを回復させる術を知ると主張するゼムナスに、望みをかけてみよう。

ジュード達に説明をして、カナンがいる寝室へ彼等を入れた。

ゼムナスは、瞼を閉ざす知人を見るやどこか痛ましそうに目を細める。


『まったく、無茶をする所は“彼女”と共通だな』


“彼女”―――それは、カナンの仲間の事だろうか。


アクセルが、片手で背負っていたバッグをゼムナスに渡した。

彼は、その中から注射器を取り出して、カナンの腕にそれを差して血液を抜き取る。

抜き取った血液を、何か小型の機械と思わしきものに入れた。


『この毒は…やはり“アレ”の血液が使われているのか』

『あの…“アレ”とは何の事ですか?』


部屋にいた医師が恐る恐る疑問を口にした。

ゼムナスは、静かに医師に視線を向けると…


『“アレ”を説明するには少し時間がかかる。治療が済んでからでよろしいか?』


そう言われて、医師は、はぁ…と気後れするように頷くしかなかった。

次に、ケースに入れられた液体のサンプルと別の注射器を取り出した。

注射器にその薬と思わしき液体を入れて、カナンの腕にそれをさした。

注入してから、暫く経ってカナンの顔色が徐々によくなってきた。


『…効果がでてきた。この薬品を投与し続けて頂きたい。そうすれば、カナンの病状も回復するはずだ』


それから、一週間後…ゼムナスの言葉通りとなった。

医師もジュードさえも、あまりにも早い回復に驚きを隠せなかった。

カナンが眠りから覚める事ができたのも、この男のおかげだ。

おそらく、この一件でジュード達は彼の事を恩人の様にみていくに違いない。


しかし…アルヴィンは違った。

ゼムナスが使用していた小型の機械。

あれは、この世界では“ありえない物”だ。

そう…自分の生まれ故郷でも、あれほどの精密な機械を見た事はない。

モヤモヤとしていたある疑念が、ハッキリした確信へ変わった。


「ほぅ…質問の内容は?」

「あんた達の事もそうだが…カナンやアンジール、エクレシアと呼ばれる種族の事も聞きたい」


真剣な顔で問いただすアルヴィン。


「お断りしよう。そもそも、我々とエクレシアの事を知った所で、貴殿に何のメリットがある?」


ゼムナスは答えたくないという意志を示した。

しかし、相手がNOと言っても、アルヴィンも引き下がるつもりはない。



「確かに…俺は雇われた身だ。

依頼人のプライベートにいちいち突っ込んで穿り返すのは業務違反だって事は解っている」



けどな…と続けて反対語を口にして、言葉を紡いだ。



「カナンがこれ以上、無茶をして傷ついてそれを黙認していられる程、俺も出来た人間になれねーんだよ。

あいつが何をしたいのか…ミラと旅をする本当の理由は何のか…

それをハッキリさせないと個人的に気分が晴れないんでね」



カナンがミラに同行する理由…彼女の使命。

ア・ジュール王の事を抜きにして、彼女が背負い込むものは何なのか?


「真実を知る事が必ずしもいいとは限らない。それが残酷な結果を招く事もあるのだぞ」

「そうかもな…だがな、誰にも知られずに、秘密を一人背負い込む事も辛いんだよ」


時折、カナンは寂しい表情で夜空を見つめている。

その後ろ姿は…どこか、親近感を覚えた。

望郷の念を抱いて、ひたすら帰る方法を模索している自分と重なったのだ。



「放っておけないんだ…俺の勝手な独善でな」





【救いの手を差し伸べる“異端者”】





理由を聞きながら、ゼムナスはある気配に気付いた。

二階からこちら側を眺める人物―――その目つきはあたかも、己の縄張りを荒らす輩を注視しているかのようだ。


「解った。ならば…エクレシアと我々の事を説明しよう。よければ、後ろのお嬢さんも如何かな?」

「!……ミラ…!?」


ゼムナスの言葉に、アルヴィンはその方向を振り向くと松葉杖をついたミラがいた。

ゼムナスに対して厳しい表情を浮かべるミラ。

そんな彼女の態度を気にする事無く、ゼムナスは興味深そうに口元に弧を描く。



「はじめまして―――精霊の主“マクスウェル”」





【つづく】

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