第5章:行く手を阻むモノ


苦しい…。

身体が鉛のように重い。

ぶくぶくと気泡を出しながら、光の差さない深海へ落ちていく。


(……ここは……?)


ようやく、底について背中に軽い衝撃がきた。

キラキラと舞い上がる砂塵を見ながら、カナンは遥か遠くに見える水面の光に目を細める。


(あそこに…)


ゆっくりと腕をあげて、手を広げて掴もうとする…。


(…いかないと……)


必死で、頭で動けと命令しても、身体は全然反応しない。

だんだん、視界も狭くなってくる…瞼が少しずつさがってくる。


(…ダメ…眠ったら…)


眠りについてしまえば…“戻れなくなる”

まだ自分は眠る訳にはいかない。


(うごいて…おねがい……)


ひたすら願った。

皆のもとへ戻りたい…ヴァンスを倒したい…。

そして…【あの人】に想いを伝えたい。


(私には…やらなければならない事があるの…!)


《そうだ、諦めるな》


誰かの声が聞こえてきた。

姿は見えなくても…語りかける人物は解る。


(アンジール…)


《貴女は…新たな【道】を切り開いた、まだスタート時点ですよ》


優しい声音で語りかけてくる…あの人。


(リエさん…)


閉じかけていた目をカッと開ける。


《さぁ…私の手を取って》


差しのべられたその手をパシッと握った。


《かえりましょう、みんなの所へ》

(……ええ、イレーヌ)


繋がれた手から伝わってくる温かさ。

引きあげられるように…身体は上へ上へとあがっていった。


◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇


「う…ん……」


ぼんやりと視界に映る影…。

意識が浮上すると、その《影》の姿が明るみになった。


「起きたか…」


銀髪…金色の瞳…少し威圧感を放つ端正な顔立ち。


「……うぇ!?」


目の前に飛び込んできたその人物の顔に、カナンは拍子の外れた声を出してしまう。


「ぜ…ムナス?」

「その通りだ」


独特の声音が耳元に響く。

ああ、間違いない…。

―――ゼムナスだ。


「久しいな、わが友よ」


ニヤリと口端をあげる彼に、微妙な笑みを浮かべてしまう。


「具合はどうだ?」

「うん…なんとかいけそう」


まさか、目覚めて出迎えてくれる最初の相手が13機関の指導者とは思いもよらなかった。

気だるさは残るものの、体内の毒は中和されたようだ。

ゆっくりと上半身を起こして、辺りを見回す。

周囲の内装から、此処がシャール家の屋敷の一室なのだと解った。


「あれから…何があったの?」

「その疑問は、私ではなく…」



―――バァーン!


会話の最中、大きな音を立てて扉が開かれた。


「「「カナン(さん)!」」」


ジュード、エリーゼ、アルヴィン、そしてニルスが慌ただしく入室してきた。


「彼らが教えてくれるだろう」


彼等の登場を予期していたのか…。

ゼムナスの表情はどこか得意気にみえた。



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