第5章:行く手を阻むモノ
ようやく二人を見つけたジュード。
しかし、全身が変わり果てた姿のミラと、口から吐血らしきあとがある顔面蒼白のカナンを目の当たりにして絶句する。
「そんな…ミラ、カナンさん!」
「こいつは…なんてこった…!」
追いかけてきたアルヴィンも、二人の惨状に息を呑む。
ジュードは咄嗟に、ミラの上半身を抱き起こすと治癒功をかけ始めた。
「ミラ、カナンさん…うっ…!」
『わー、ぐちゃぐちゃだよー。見たくないー!』
エリーゼは顔を覆い、ティポがあまりの凄惨な光景に嫌がる。
後からやってきたニルスは顔を青ざめると、すぐさまカナンへ近寄って、ジュードと同様に治療を行う。
「エリーゼ、治療を手伝って、早く!」
ジュードは、語気を荒げて叫んだ。
エリーゼは若干震えると「わ、分かりました」と言ってミラとカナン…二人に広範囲の回復術をかけていく。
「ミラ…カナンさん…どうして…こんな事に…」
ジュードは、半ば涙目で疑問の言葉を投げかけてしまう。
「くっ…僕達だけだと限界がある。専門医のいる場所へ行かなくては…このままだと二人とも危ない」
「なら、すぐにカラハ・シャールへ戻るぞ。ジュード、いい加減落ち着け! あんたはカナンを移動させろ…いいな!」
混乱するジュードと、苦悶の表情のニルスに対して、アルヴィンは渇を入れる。
「じいさん、脱出手段は整っているよな?」
「こんな事もあろうかと、内通者に馬車を用意させています。急ぎましょう!」
アルヴィンが負傷しているミラを背負い、意識のないカナンをニルスが横抱きにして、一行はローエンの案内のもと、要塞の出口まで移動していく。
爆発で、要塞は夥しい喧騒に包まれており、あちらこちらで兵達が駆けずり回っている。
混乱の中、一行は出口で辿り着いて、用意されていた馬車へ乗りこむ。
しかし、その様子を兵士の一人が目撃してしまう。
「脱走者はあそこだ!」
「緊急事態だ、ゴーレムを起動させろ!」
別の兵士が叫んだのを合図に、大通路に飾られていた大きな像がゆっくりと動き出した。
「あの像…動くの!?」
『いやあああ、こっちにくるぅううう!』
「いきますよ…皆さんしっかり捕まっててください!」
ジュードは驚き、怖いあまりティポは叫び出してしまう。
ローエンは、手綱を握ると馬に鞭を打つ。
馬車は走り出して、一体のゴーレムを通り抜けるが…前方からもう一体が立ちはだかる。
「くそっ…」
アルヴィンが馬車の上から銃を構えて発射するが、頑丈な作りのゴーレムには全く効いていないようだ。
このままでは、踏みつぶされる…!
緊迫した空気が立ち込めた瞬間、ゴーレムの巨体を何本もの茨が巻きついて、動きを封じた。
「…何なの、あれは…?」
ジュードが窓からそれを凝視する一方、アルヴィンがこれを好機ととらえた。
「じいさん、そのまま突っ走れ!」
「勿論です」
馬車は弾かれた様に、スピードをあげていく…こうして、ジュード達は鉄の要塞からの脱出に成功した。
【傷ついた精霊の主と小鳥】
茨で縛られたゴーレムは、未だに身動きがとれないまま固まっている。
もう一体は、侵入者を探そうとあちこちを移動していた…すると、該当する黒づくめの衣装の人物をセンサーでキャッチした。
大きな腕をあげて、ブンッと振り下ろした…が、ゴーレムの拳が侵入者を直撃する事はなかった。
「遅いな…」
その巨体は瞬時に、バラバラに解体されてしまい、細かな砂と岩の欠片となって崩れ落ちていく。
信じられない光景に、その場にいた複数の兵士達は唖然として、中には腰を抜かしてしまう者もいた。
落ちた残骸の上に降り立った…黒づくめの人物。
深く被っていたフードがとれたその姿は、長い銀髪で、月を連想させる金色の瞳の男性だった。
ズガッと轟音が鳴り響く。
茨に囚われていたもう一体も…同様の姿へ変わり果てていた。
桃色の髪をかきあげて、大きな鎌を片手に優雅に佇む男性によって。
「貴方までこの世界へくるとは…何かあったのか?」
「マールーシャ…事は予想以上に複雑化している。よって、降り立った次第だ」
「複雑化とは…?」
マールーシャはその言葉の真意を尋ねると、銀髪の男性はゆっくりと唇を動かす。
「―――『彼女』に関わる問題だ」
「『彼女』……!」
男性の言葉に、マールーシャはある人物が頭をよぎる。
さらに、詳細を聞かされた。話を聞いてもなお、彼は俄かに信じがたい顔でその男性を見つめる。
「お前は一度、城へ戻って他のメンバーにこの件を通達してくれ。―――私はある人物と会わなくてはならない」
「その人物とは…誰だ? ゼムナス」
その問いかけに、男性…ゼムナスはフッと口角をあげてこう答えた。
「少々…変わった価値観をもつ【友】と言っておこうか」
【つづく】
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