第5章:行く手を阻むモノ
「待て、ナハティガル!」
ナハティガル達に追いついたミラは、彼等に向けて炎の精霊術を放った。
しかし、【呪帯】により術はかき消されてしまう。
「無駄だ、自称マクスウェル」
「…答えろ。何故、黒匣を使う?
何故、民を犠牲にしてまで必要以上の力を求めるのだ?
王はその民を守るものだろう?」
間に呪帯を挟んで、ミラはナハティガルを睨み据え、質問を投げかけた。
「ふん、お前には分かるまい。世界の王たる者の使命を!
己が国を! 地位を! 意志を! 守り通す為には力が必要なのだ。
民はそのための礎となる…些細な犠牲だ!」
ナハティガルは高らかに答えた。
ミラは、その答えを聞くや手にしていた剣を真っ直ぐ構える。
「…貴様は一つ勘違いをしている」
「なんだと…?」
「このような物で自分を守らねば…黒匣の力などに頼らねば、自らの使命を唱えられない貴様にできることなど何もない!」
ミラは、呪帯が張られているにも関わらず、大きく跳躍して剣を振りかぶる。
予想外の行動に、ナハティガルは目を見開くが、呪帯が足の拘束具に反応して四方から光が放たれる。
白煙に包まれた事でミラがくたばったと思い、不敵な笑みを浮かべるナハティガル。
しかし……煙を一掃するように、ミラが疾風のごとき早さで、刃を振りかざしてきた。
「はぁああ!」
「何っ!」
手甲で、その白刃を受け止めるが、あまりの勢いにナハティガルはズズッと後方まで下がる。
「為すべき事を歪め、自らの意志を力として臨まない貴様などに…私は負けない!」
手を休めることなく、太刀を振るおうとした瞬間、呪帯の閃光が再び彼女に振りかかる。
爆発が起こり、ミラは吹き飛ばされてしまう。
「ふっ…ははは…それが意志の力とやらか?やはり、傷ひとつ負わせられぬではないか」
哄笑するナハティガルだったが…すぐにその顔は一変する。
「貴様に使命を語る資格は…ないッ!」
爆発に巻き込まれたにも関わらず、ミラは猛烈なスピードで迫ってきた。
あまりの気迫に、ナハティガルは怯んだのか、何の反応もできずにいた。
喉元を剣の切っ先が肉薄しようとした…その時、三度目の爆発が起きた。
ミラはさすがに、それに耐えきれなかったのか…地に伏してしまう。
「ミラ!」
その直後に、カナンが走ってやってきた。
爆発によりかなりの損傷を受けた、ミラを見てカナンは言葉を失ってしまうが…
すぐに倒れている彼女に近づき、回復術をかけ始める。
「こいつ…何の迷いもなく…」
ナハティガルは、呆然として倒れているミラを見つめる。
「これが…貴方とミラの格の違いよ。ナハティガル王」
回復術をしながら、カナンは静かにそう言った。
「欲に溺れて、保身に走る貴方なんかに…この世を統べる資格はない」
そして、怒を孕んだ瞳で力強くその言葉を言い放つ。
先程とは比べ物にならない位、殺気を交えた強烈なオーラに、ナハティガルは金縛りにあう感覚に苛まれる。
「その首を吹き飛ばされたくなければ、立ち去りなさい。…私の視界から速やかにね」
凄みのある声音を投げつけると、カナンは視界を逸らして回復術に集中する。
「陛下…こちらへ!」
「う、うむ…」
カナンの言い放った言葉に、形容し難い屈辱と劣等感を感じながらも、ナハティガルはその場を後にした。
「ミラ…ミラ…しっかりして!」
全身に酷い火傷を負っている上に、ミラは意識が混濁している。
―――あまりにも危険な状態だ…。
さらに、回復術を強めようとしたその時…ドクッとカナンの胸が大きく鼓動する。
腹部に痛みが生じ、片手でそこを押さえるが…今度は吐き気が込み上げてきた。
回復術の手が止まってしまい、口元を手で覆うと、カナンはすぐ横で嘔吐してしまう。
ハァハァと息切れをして、手元をみると吐瀉物と共に血液が混じっていた。
「毒が…進行している」
予想以上に、受けた毒は強烈な物だった。
次第に、身体が熱くなってきて鉛のように身体が重くなっていく。
「…うぅ…こんな事で…負けて…たまるもんですか…ッ」
腕で口元を拭うと、カナンは再び回復術を発動させる。
ズキズキッと刺される様な痛みに襲われる…カナンはそれらを我慢してミラへの治療を続ける。
「ミラ……あなたを絶対に…救って…みせる!」
だんだんと、意識が朦朧とするのをこらえながらもカナンはありったけの力をミラに注ぐ。
「ミラ、カナンさん!」
聞き覚えのある声が耳に入った。
視界に…走ってこちらへ来るジュードが見えた瞬間、カナンの意識はそこで途切れてしまった。
・
