第5章:行く手を阻むモノ
ミラ達と合流したカナンは、ティポを探す為に通路を移動していた。
「ぬいぐるみの居場所を教えてもらえる?」
「せっ、制御室だ…下の階にある…」
途中、襲いかかってきたラ・シュガル兵から制御室とティポの情報を聞き出せた。
エレベーターを起動させて、下のフロアへ降りていく。
「カナン…顔色がすぐれないぞ?」
「まさか、さっきの傷で感染症が…!」
ミラとニルスが心配そうに尋ねるが、カナンは緩慢に首を横を振る。
「大丈夫…ちょっと色々あって疲れただけ」
笑って平然を装うが、カナンは自ずともう塞がっている肩の傷口部分に手を添える。
(あの暗具に毒が塗られてたみたいね…)
しかも、微量で通常の人間なら命にかかわる程の毒物だ。
二人に気付かれないよう、軽く息をついてカナンは瞼を閉じる。
自分が【エクレシア】でよかった…と感じるのがこの時だ。
体内で抗体ができるまで、時間はかかるものの、幸い目立った症状はでてきていない。
(でも、油断はできないかな…早くティポ君を探さないと)
ジワリと体内を侵食する毒の影響で、額から一筋の流れる汗を手の甲で拭う。
やがて、エレベーターが目的のフロアへ到着した。
進んでいくと、壁に大きな硝子窓で覆われた場所へ差し掛かった。
「あれは…!」
窓に近づいたミラ…つられるようにカナンとニルスも硝子越しに飛び込んだ光景に大きく目を見張る。
「ぐぉおおおおっ!」
大きな部屋に、筒状の装置が横向きに設置されて起動していた。
その中には囚われた男性がいて、苦しみのあまり絶叫をあげている。
装置を囲むように、ジランドと黄色い衣服を纏う研究員二人がその人の様子を眺めていた。
「霊力野の活動、赤色域に突入。マナ放出、瞬間値で58万5千レールを記録しました」
「ふふ、素晴らしい」
あまりにも惨たらしい人体実験の様子に、カナンは内から沸々と怒りが湧き出てくる。
ニルスも同じ感情なのだろう、眉を大いに顰めてギリッと歯軋りをしている。
その時、研究者の後方にある操作盤にティポがおかれている事に気付いた。
「いくぞ、二人とも!」
ミラの行動は早かった。
大胆にも硝子戸を突き破り、研究室内へ飛び込んだ。
突然、窓を壊して現れたミラに…ジランドと研究者達は驚愕する。
「な、何! お前達、どうしてここに!」
驚きを隠せないジランドをよそに、カナンは窓から飛び降りる。
降りていく途中で、起動している装置に銃の引き金をひいて、弾丸を連発した。
見事命中して、装置は煙と電流をだして壊れてしまった。
機能を失った事で、筒状の装置も蓋が解放された…横たわる実験体にされていた男性に、ニルスは近寄る。
どうやら、まだ脈はあったようだ…男性を引き摺りだすと、床へ横にさせて回復術をかけている。
三人の乱入者に動揺しながらも、ティポを掴み取ろうとした研究員。
すかさず、カナンは銃を撃って研究者を威嚇する。
「その子は返してもらうわよ」
「ひっ…!」
銃口を突きつけられ、研究員は怯える声を出して両手をあげる。
カナンは、ティポを優しく片手で拾い上げると、ジランドと対峙しているミラのもとへいく。
「覚悟はできているな…ジランド」
「くっ…」
露骨にたじろぎ、逃げ腰になっているジランド。
ミラが、剣を構えて一歩前に踏み出そうとしたその瞬間―――
「茶番だな。実にくだらん」
「陛下…!」
部屋の入口の扉を開けて、数人の親衛隊を連れたナハティガルが姿を見せた。
・
