第5章:行く手を阻むモノ
鋭い凶器は、ミラの胸を貫かなかった…。
「カナン…!」
カナンが、ミラを庇うように突き飛ばしたおかげで。
代わりに、彼女は肩に切傷を負ってしまう。
「大丈夫…かすり傷よ」
痛みで反射的に片目を瞑って言う。
ストッと床に着地したイタチは目を細める。
「仕留め損ねたか」
「余所見するとは、随分余裕じゃねーか」
動きを止めたイタチに、背後からガンアローを突きつけるシグバール。
イタチは肩越しに後方を見るが、すぐに視線をカナン達へ戻す。
「まあ…標的は違えど、抑止にはなるか」
「どういう意味だ!」
ミラが剣を抜刀して、イタチに突きつける。
「これ以上、あなた方に時間を割く意味はない」
前方と背後で追い詰められているにも関わらず、イタチは動揺する事なく平静に答える。
「貴女が【運命】にどう抗うのか、拝見させてもらう」
傷口を手で抑えるカナンに対して、意味深気な言葉を放つと、イタチは懐から煙玉を取り出し、地面にたたきつけた。
「…しまった!」
周囲が白煙に包まれる中、イタチは姿を消した。
「くそ、待ちやがれ!」
苛立つ声を漏らして、シグバールも彼を追いかけていったのだろう、いつの間にか部屋からいなくなっていた。
【狐の挑発】
「どうですか…?」
「ええ、ありがとう。ニルスさん」
ニルスの回復術で、傷口はほとんど塞がった。
「すまない…」
ミラが申し訳なさそうに謝罪を口にした。
カナンは立ち上がると苦笑してこう指摘した。
「ミラ…こういう時は別の言葉を言うべきじゃない?」
「…! そうだな…『ありがとう』」
固い表情を和らげて、ミラは感謝の言葉を言った。
「さて…今度はティポ君を救出する番よ」
カナンは真剣な顔つきになる。
「ああ、ナハティガル…奴らの蛮行を食い止めなけらばならない」
ミラもまた、いつもの調子を取り戻してカナンの言葉に賛同する。
「微弱ながら、僕も協力しますよ」
「ニルスさん…(そう言えば…この人、なんでこんな所にいるの?)」
ニルスが何故、ミラと行動を共にしているのか…事情が分からず、カナンは内心、疑問符が浮かんでいる。
「さあ、急ごう!」
理由を聞きたかったが、ミラの掛け声でそれは阻まれてしまう。
仕方ない…と疑問を頭の隅にのけて、カナンはミラ達の後を急ぎ足でついていった。
【つづく】
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